2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J05577
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
中山 なな 早稲田大学, 人間科学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 江戸考古学 / 生物考古学 / 子どもの墓 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度は主に、江戸の墓地遺跡出土人骨を対象とする観察・分析を行った。具体的には、国立科学博物館所蔵の江戸遺跡出土人骨約240体を対象に、(1)歯科疾患に関する観察・分析と、(2)エナメル質減形成に関する観察・分析を行った。以下、(1)(2)の各分析結果について述べる。 (1)歯科疾患に関する観察・分析 集団全体の口腔衛生や食生活を明らかにするため、生前喪失歯、う歯(虫歯)、歯周病の有無、咬耗の程度等の観察を行った。その結果、17世紀から18世紀にかけて歯科疾患の罹患率が大きく増加することが明らかとなった。また18世紀以降の集団においては、身分・階層が高いほど、生前喪失歯の本数が有意に多いという結果が得られたが、その他の観察項目では身分・階層間で有意差は見られなかった。 (2)エナメル質減形成に関する観察・分析 乳幼児期の健康状態を明らかにするため、永久歯の表面に見られるエナメル質減形成の有無を観察し、2014年度に行った出土人骨の観察データに加え、改めて分析を行った。その結果、18世紀以降の集団は17世紀前半の集団に比べ、減形成の出現率および歯一本あたりの減形成の本数が減少する傾向にあり、乳幼児期の健康状態が改善したことがうかがえるが、18世紀と19世紀の集団間ではそれほど大きな変化がないことが明らかとなった。 これらの観察・分析の他に、聖マリアンナ医科大学所蔵の山梨県米倉山B遺跡出土人骨のデータ収集に向けた準備を行った。具体的には、本資料は、観察に先立ち観察部位のクリーニングが必要な状態であったため、クリーニングを行った。また、当該遺跡の発掘調査報告書に基づき、埋葬遺構データの収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、2015年度に江戸周辺村落の出土人骨のデータ収集を行う予定であったが、観察資料の状態を鑑み、江戸内部の出土人骨のデータ収集・分析を優先した。その結果、江戸周辺村落の出土人骨に関するデータ収集には遅れがみられるものの、江戸内部の出土人骨のデータ収集が大幅に進んだ。また、当初の計画ではエナメル質減形成の観察を中心に行う予定であったが、生前喪失歯やう歯(虫歯)、歯周病の有無、咬耗の程度等の歯科疾患についても観察を行うことができた。その結果、江戸における健康状態の時期変化や身分・階層差の実態が多様な観点から明らかとなった。したがって、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度得られた分析結果の論文発表・学会発表を行うとともに、江戸の墓地遺跡の考古学的データと、出土人骨の人類学的データを総合し、江戸の子どもの生と死の実態について多角的に検討する。子どもの墓のあり方、およびその背景にある「子ども観」の変遷や身分・階層差と、健康状態の変化や身分・階層差が互いにどのような関係にあるのか、文献史学や民俗学における知見ならびに子どもを対象とした海外における考古学的研究事例を参照し、総合的な考察を加える計画である。 また、今後の研究に向け、聖マリアンナ医科大学所蔵の山梨県米倉山B遺跡出土人骨のデータ収集を行う。
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Research Products
(2 results)