2015 Fiscal Year Annual Research Report
思想・良心の自由に基づく法義務免除ーアメリカの宗教的自由の保護を参考に
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15J05699
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
森口 千弘 早稲田大学, 法学学術院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 思想・良心の自由 / 信教の自由 / 法義務免除 / 憲法19条 / 合衆国憲法修正1条 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は思想・良心の自由に基づく法義務免除について、アメリカ合衆国の議論を参考にしながら研究を進めた。 アメリカでは憲法修正1条の宗教行為の自由の下、「信仰」と「法」の衝突に際して一定の要件を満たせば「信仰」を優先しうる、言いかえれば「信仰」に対して法義務免除を行う「法義務免除」法理が判例法理として出来上がっている。このような保護の在り方は、日本でも思想・良心の自由の文脈で議論の俎上には上がっていたものの、研究が活発であったとは言い難い。そこで申請者はアメリカの議論を詳細に把握することを通じて、日本の「法義務免除」法理の議論状況の問題点、必要点を明らかにすることが申請者の研究の目的である。 このような目的に照らして、平成27年度はアメリカ合衆国憲法修正1条の宗教行為の自由条項、国教樹立禁止条項と宗教的信念に基づく「法義務免除」の関係に焦点を当てて研究を行った。具体的には、なぜ宗教的自由に関して、社会の通常のメンバーが従う義務からの免除という特別な保護が求められるのかという「法義務免除の正当化」の問題、そして、正当化可能として、そのような特別な保護に値する対象は何かという「法義務免除の対象」の問題、という二つの問題に焦点を当てて研究を行った。 さらに、申請者の元来の問題意識である「思想・良心の自由」の問題にかかわり、アメリカの法義務免除の対象が「宗教的信仰」から「世俗的な良心」に拡大されていく判例、学説の展開を概観し、個人の内心にとって一定の機能を果たす信仰・良心が特別な保護に値する、という「機能アプローチ」という結論を導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究はおおむね順調に進展している。 平成27年度はアメリカの宗教的自由の判例、学説について比較的網羅的に検討し、「法義務免除」の法理に関わる議論状況を押さえている。この成果の一部は、論文「宗教条項の再定位 : アメリカにおける世俗的良心の保護理論」早稲田法学会誌 65巻2号359頁(2015)としてまとめ、公表している。この論文では、判例法理で認められてきた「宗教」のみに対する法義務免除は、宗教を不当に優遇するものであり平等条項、国教樹立禁止条項との間で問題が生ずるという批判を概観し、にもかかわらず「法義務免除」が必要であるとするなら、これらの憲法の条項との関係をどのように処理するべきかを検討した。論文ではChristopher L. Eisgruber& Lawrence G. Sager、Michael McConnell、Andrew Koppelmanの三人の論者の諸論を中心に、「宗教への不当な特権」「世俗的良心の取扱い」「法義務免除に関わる判例法理の可能性」という観点から法義務免除論について論じた。結論として、世俗的良心をも含むような形で保護対象を選定すれば、「法義務免除」に付随する問題の多くを解決可能であることを示した。 もっとも、学説については今後も検討の余地がある。というのも、2015年以降、Kent Greenawalt、Michal schwartzmanといった論者が「法義務免除」論について重要な著作、論文を執筆しており、これらの論者を申請者がこれまで研究してきた学説状況の中に以下に位置づけるかを検討していく必要があるためである。これに関しては研究は半ばであり、来年度の課題としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はアメリカの議論を総括するとともに、アメリカの「法義務免除」論を日本の文脈に当てはめて検討することが課題となる。 上述のように、申請者はまずKent Greenawalt、Michal schwartzman、といった前年度までの研究が間に合わなかった論者に取り組むとともに、合衆国憲法の宗教行為の自由、国教樹立禁止条項、修正1条の原理としての「思想の自由(freedom of thought)」などの条文との関係の中で「法義務免除」論がどのような位置づけを与えられているのかを総括する必要がある。この研究のためには、「法義務免除」論を専門的に取り扱う研究者のみならず、表現の自由、平等条項など、関係領域の研究をも踏まえて、巨視的な立場からの検討が必須となる。平成28年度はこのような研究に取り組む予定である。 また、アメリカの議論に一区切りを付け、日本の「思想・良心の自由」の文脈のなかで「法義務免除」論がどのように生きてくるかを検討することも、平成28年度の課題である。日本ではすでに、西原博史が『良心の自由〔増補版〕』(成文堂、2001)で法義務免除の必要性について指摘している。もっとも、佐々木弘通「『人権』論・思想良心の自由・国歌斉唱」1頁成城法学66巻(2001)などで示されるように、日本の思想・良心の自由は個人の「特殊な良心」への免除の問題よりも、国家権力がどこまで思想・良心の領域に踏み込んでよいかという、国家権力の限界の問題から語られる傾向にある。このような議論状況の中、アメリカの「正当化」「対象」の議論を位置づけることが申請者の今後の研究の目的となる。
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Research Products
(1 results)