2015 Fiscal Year Annual Research Report
幼児における心的数直線の形成過程の検討:規定因の特定から日常場面への応用まで
Project/Area Number |
15J05804
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
浦上 萌 広島大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 心的数直線 / 数量概念 / 数直線課題 / 空間認知 / 保育場面 / 幼児 |
Outline of Annual Research Achievements |
心的数直線は数量概念の獲得を示す指標として考えられており,その発達過程を検討した研究が,これまでにも多くなされている。本年度は,幼児において数と量の2つのスキーマが適切に統合された直線型に至るまでの心的数直線の形成過程とそれに関わる要因の検討をし,その結果を学会発表や研究会で発表し,一部の結果に関しては論文に執筆した。 まず,幼児 (年少児・年中児・年長児) を対象に,数直線上で数を見積る数直線課題を実施し,心的数直線の形成過程について縦断調査を2時点行った。その結果,いずれも提示数と見積った数とのズレが大きい不正確な直線型の者が多かった。また,1時点目では,数の順序や大きさが考慮されていない見積りであった者も,2時点目では直線型に至っている者がいた。 次に,見積りの不正確な直線型が正確な直線型へと至るための要因として,空間認知が関連していると考え,心的数直線の型と空間認知との関連を検討した。空間認知の課題は,数直線課題において,数直線全体を分割し,数を配置することに関わる能力 (空間配置課題) と,提示された数直線の長さに応じ,個人の持つ心的数直線を拡大縮小し,調整することに関連するスケーリング能力を測定するスケーリング課題を実施した。両者の課題と数直線課題との関連を検討した結果,数直線課題では,見積りの成績に個人差があり,数の順序や大きさを考慮していない見積りがあったり,不正確な直線型の見積りがあったりした一方で,空間配置課題とスケーリング課題の成績は,全体的に成績が高かった。よって空間認知の課題では,全体と部分の関係を考慮した判断 (比率判断) ができるが,数直線課題のように,数量と結びつけて比率判断をしなければならない場合,幼児には困難になることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
幼児における心的数直線の形成過程を明らかにするために,今年度は研究を2つ実施している。1つは,数直線課題の縦断研究で,数量表象の型の個人内の変化を検討し,関数に適合しない状態から対数型,あるいは直<1型・直>1型への変化や,直線の傾きに関するより詳細かつ正確な発達的変化を示した。もう1つは,空間認知が心的数直線の発達に及ぼす影響についてで,空間配置課題やスケーリング課題という独自の課題を開発し,心的数直線の型と空間認知との関連を検討し,両者の一部が重なることを明らかにできたため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において,幼児期では直線の傾きが1から離れた直<1型や直>1型が多いことが明らかになった。そして見積る方略についても検討した結果,直<1型や直>1型には,指の幅のイメージが単位量の理解に関連している可能性が示唆された。今後は,幼児期の単位量の理解について検討する必要がある。 さらに,空間認知と心的数直線との関連を検討した結果,空間認知の課題では,全体と部分の関係を考慮した判断 (比率判断) ができるが,数直線課題のように,数量と結びつけて比率判断をしなければならない場合,数直線全体の長さを考慮して見積ることが困難であることが示された。つまり,数量を伴わない空間を把握する場面においては,比率判断を日常的に行っている可能性があるが,数量を伴った比率判断は,あまり意識されていない可能性がある。よって保育場面で,数量を比率的に扱う場面がどのように意識されているかどうか検討していく予定である。
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