2015 Fiscal Year Annual Research Report
17~19世紀アジア認識の転換過程の日韓比較分析―「漂流記」言説を中心に
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15J05952
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
松本 智也 立命館大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 漂流 / 日朝関係 / 相互認識 / 通信使 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、今後の研究の中核をなす基本資料の収集・調査を行い、研究史・論点の整理を行うなど、基礎的な作業に重点を置いて研究に取り組んできた。 1. 史料の収集・調査では、まず活字化されている基本史料の収集(例えば石井研堂『江戸漂流記総集』、荒川秀俊『異国漂流記集』、関西大学東西学術研究所『江戸時代唐船漂着資料集』など)を行った。また各地での史料調査(北海道大学北方資料館、道立文書館、名古屋市蓬左文庫、東京都立中央図書館、国立公文書館、国立国会図書館など)を行った。 2. 研究状況は次の通りである。武士階層の朝鮮認識を検討するため、1819年に朝鮮へ漂着した薩摩藩士の記録 (『朝鮮漂流日記』) を分析した。ここで徳川日本の武士階層と朝鮮の文人は共通する漢字文化を基盤とした相互認識を有していたことを指摘した。また庶民階層の朝鮮認識を考察するため、日本から朝鮮に漂着した事例の網羅的検討を行った。ここから朝鮮認識には階層的差異が見出されることを指摘した。これらをより広い動向に位置づけるため知識人層の朝鮮認識一般の検討を行った。また並行して行った夫馬進『朝鮮燕行使と朝鮮通信使』の書評執筆を契機に、朝鮮通信使も踏まえて検討することが議論を活かすのに有用であることを見出した。すなわち1819年に朝鮮へ漂着した薩摩藩士の記録にある朝鮮文人との筆談をより広い文脈でとらえるためには、1811年の通信使と日本側文人との接触についても検討することには意義があり、漂流記執筆者の対外観(今後検討予定)とを有機的に連関させることができる見通しが立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本国内での資料収集・調査には当初の計画よりも時間を要することとなった。また、対象を朝鮮漂着漂流民に限定して行ったため、他地域への漂流民、漂流記執筆者にまで検討は及ばなかった。しかしながら、朝鮮通信使に着目することに大きな意義を見出したことは、今後の研究の方向性を左右すると言え、当初の想定を超えた大きな進展であると見なせる。以上の理由によりおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 史料の収集・調査 次年度も引き続き日本国内とりわけ西日本での資料収集・調査を中心に行う。韓国での調査も可能な限り行う。 2. 研究対象の拡張 次年度は他地域への漂流民にも対象を広げ、中国認識などについても検討していくようにしたい。また、本年度新たに発見した論点である朝鮮通信使との関連についても深化させて検討していくようにしたい。なお本年度は日本側の視点が中心だったのに対し、次年度は朝鮮側の視点にも目配せすることを念頭において研究を進めたい。 3. 漂流記執筆者への着目 本年度は漂流記テクスト内部の分析に集中したため、漂流記執筆者については先送りにしてきた。次年度は漂流記執筆・編集者の対外観、それと漂流記言説の広がりについても検討を行うようにしたい。その際に、知識人層の朝鮮認識をめぐる論点と接続することで、より有機的に検討することができる見通しである。
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Research Products
(6 results)