2016 Fiscal Year Annual Research Report
シアル酸認識レクチンシグレック9と認識糖鎖の相互作用による抗癌免疫監視の制御機構
Project/Area Number |
15J06515
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高野 舞子 名古屋大学, 医学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | シグレック9 / シアル酸 / がん / 転移・浸潤 / 免疫監視機構 / 炎症 / マクロファージ / 幹細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
シアル酸認識レクチンシグレック9は、単球や顆粒球に発現している。当研究グループは、シグレック9とがん細胞上のシアル酸含有糖鎖との相互作用によるがん細胞の運動性の増強を報告した。がん細胞内でシグナル分子の分解が亢進される一方、シグレック9を発現するヒト単球細胞では、がん細胞との相互作用によって抑制性シグナルが伝達されることを示した。このことより、がん細胞の転移や浸潤をシアル酸が増強させると共に、免疫監視機構を抑制してがん細胞に有利な環境を提供していることが示唆された(Sabit, et.al., 2013)。また、当グループは乳歯の歯髄幹細胞(SHED)とその培養上清がマクロファージを抗炎症(M2)型に転換させて脊髄損傷等の炎症疾患に治療効果を奏することを示してきた(Matsubara, et. al., 2015)。さらに、マクロファージのM2誘導因子として、SHEDの培養上清からシグレック9の細胞外ドメインとケモカインMCP1の2因子を同定した。M2誘導にはシグレック9がマクロファージのケモカインレセプターCCR2上のシアル酸含有糖鎖に結合することが必要であることも報告し、炎症疾患の新たなターゲットが示唆された。本研究におけるシグレック9-シアル酸相互作用の詳細な解析により、難治性疾患の新規治療法の確立が期待できる。 平成28年度においては、2因子によるマクロファージのM2誘導メカニズムを解明すべく、ブレオマイシン(BLM)誘発性肺線維症をモデルとした検討を行った。当グループではSHEDの培養上清がBLMマウスの治療に有効であることを報告しており(Wakayama, et. al., 2015)、2因子も同様の効果を示すことが先行研究からわかっている。申請者は肺線維症への2因子の介入メカニズム解明を目的に、BLMで惹起された肺炎のマウス肺細胞をFACSにて解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、シグレック9とMCP1の2因子によるマクロファージのM2誘導機構を解明するために、BLM誘発性肺線維症のマウスモデルに対する2因子の治療効果を確認し、肺にリクルートされる細胞の種類を治療・未治療群の間で比較した。これにより、本年度はおおむね順調に進展したと考える。 1. BLM誘発性肺線維症モデルの作製と2因子による治療介入 C57BL/6JマウスにBLMを気道投与し、24時間後にシグレック9とMCP1を静脈内に単回投与して体重変化と生存率を観察した。BLM投与から7日目にマウス肺の切片を作製し、モデルの病理学的な評価を行った。BLM投与されたマウスは経日的に体重が減少したが、14日間の生存率は2因子投与群に改善が見られた。7日目の肺には炎症細胞の集積、肺胞壁の肥厚、膠原線維の生成が観察された。2因子による治療介入群では病態の改善傾向が確認された。 2. 肺細胞のFACS解析 BLM投与から7日目のマウスの肺を酵素消化し、BLM投与によって変化する細胞集団をマーカー分子の発現を指標に解析した。 BLM投与マウスでは、shamに比べてリンパ球集団が減少し、単球・マクロファージ集団が著しく増加することが確認された。2因子投与マウスでは、リンパ球集団の減少は認められなかったが、単球・マクロファージ集団の増加は抑制されていた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、BLM投与と2因子の介入により変化する単球系細胞や炎症が肺の線維芽細胞に与える影響を詳細に解析することで、2因子がBLM誘発性肺線維症に対し治療効果を持つメカニズムを明らかにする。 1.BLM投与により変化する単球系細胞のサブセット解析 前年度の解析により、BLM投与によって単球系細胞集団が増加することがわかった。本年度はこの細胞集団中でのサブセットを詳細に検討する。当研究グループの知見からは、炎症性疾患にSHEDや2因子を投与することでマクロファージがM2型に転換される。BLMモデルの肺細胞においても2因子の治療介入によるM2マクロファージの出現を、CD11bとCD206の発現により解析する。また、近年では、末梢血単球由来のCD45+collagen I+のfibrocyteが炎症時の肺で増加することが多く報告されている。当研究グループのモデルを用い、肺内へのfibrocyteのリクルートを継時的に観察する。また、肺組織と同様に肺胞洗浄液中の細胞にも同様の解析を行う。 2. 肺線維芽細胞に対するマクロファージ培養上清の効果の検討 肺の線維化相においては、肺線維芽細胞が重要な役割を担っている。ここでは、炎症環境が線維芽細胞に与える影響を検討する。マウスの骨髄マクロファージをLPS、シグレック9/MCP1で、それぞれM1、M2型に誘導する。得られた培養上清中で肺線維芽細胞を培養し、その増殖能、浸潤能、活性化につきそれぞれ解析する。 得られた研究成果を国内の学術集会で発表し、論文を国際誌に投稿する。
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