2016 Fiscal Year Annual Research Report
シアノバクテリアにおけるセルロースをはじめとした細胞外多糖合成メカニズムの解明
Project/Area Number |
15J07605
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
前田 海成 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 細胞外多糖 / セルロース / シアノバクテリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の主な研究成果は3つである。 1つ目は、昨年度明らかにしたThermosynechococcus vulcanus (以下Tv)の細胞外セルロース合成に関わる因子の、低温における転写誘導に関してである。セルロース合成酵素遺伝子tll0007、昨年度の研究で寄与が明らかになったHlyD様遺伝子tlr0903、及びエンドグルカナーゼtlr1902の3つに関して、定量PCRの系を立ち上げて通常培養条件45℃と低温条件31℃での転写レベルを比較した。その結果、特にtlr0903の転写が31℃で上がることがわかった。これはc-di-GMP合成酵素tlr1210とtlr0903の二重過剰発現株が通常条件でも強い細胞凝集とセルロースの蓄積を示した結果とあい、低温でのtlr0903の転写誘導がセルロース蓄積のトリガーとなっていることを強く示唆する。 2つ目は、Tvの完全ゲノム解読である。Tvのタンパク質はその熱安定性から光化学系の研究において非常に重要であるが、完全ゲノムが解読されていなかった。そこで、細胞外多糖合成系の詳細な比較をするためにも完全ゲノムの決定を次世代シーケンサーでおこなった。また、近縁種との比較により、IS等の繰り返し配列によるゲノムシャッフリングが頻繁に生じていることも明らかになった。 3つ目はSynechococcus sp. PCC 6803 PCC-P (以下6803-P) 株における粘性細胞外多糖の合成系の同定である。6803-P株は培養管で通気培養後に静置すると、菌体が粘性の塊状になり液面に浮上・蓄積する現象が観察された。この現象は、研究で広く使われている6803-GT株では見られない。今回、6803-P株で破壊株を作製することで原因遺伝子を探索したところ、pSYSMプラスミド上に存在する遺伝子クラスターが、その粘性多糖の合成を司ることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に同定したシアノバクテリアの細胞外セルロース合成に重要な新規遺伝子であるtlr0903が、低温で誘導されていることが明らかになり、生理的な役割と結びつけることができた。また、セルロース合成酵素様タンパク質の系統解析により原核生物のセルロース合成酵素の再分類をおこなった結果、シアノバクテリアのもののようなHlyD様タンパク質を必要とする酵素が、既知のBcsBを必要とする酵素と別のクラスターを形成した。これにより、シアノバクテリアには特異的なセルロース合成酵素複合体が存在するという我々の説が、より補強された。残念ながら、セルロース合成系の局在解析等では大きな進展は見られなかったが全体としては研究が前進したため予定通りの進捗と判断した。 本研究の当初の計画では、Synechocystis sp. PCC 6803株 (以下6803)に様々な多糖合成遺伝子を導入することで多糖合成系の同定や解析をすすめる予定であったが、研究の過程で、6803自身に存在する多様な細胞外多糖を先に解明する必要性を感じたため、その内容を中心に据えている。H28年度の計画で想定していた「6803株でc-di-GMP合成酵素の過剰発現により誘導される強い固着性に関与する多糖の解明」という内容では進展が見られなかった。GT株でもP株でも、c-di-GMP合成酵素の過剰発現株は安定でなく、継代の過程で死滅するか表現型が野生型に戻ってしまった。ところがこの研究の過程で、P株でのみ、粘性多糖を蓄積し液面に細胞塊を形成するという興味深い現象を発見した。多くの細胞外多糖合成酵素の破壊株を作製した結果、pSYSM上の多糖合成遺伝子クラスターがこの粘性多糖合成に関わることを明らかにできたので、「様々なシアノバクテリアにおける細胞外多糖合成系を明らかにする」という本研究の大きなテーマとしては充分な進捗があったと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
Thermosynechococcus vulcanusの低温青色光条件下での細胞外セルロース依存性の細胞凝集に関する研究は、本年度までの内容で論文として執筆する予定である。H29年度では、セルロース合成酵素の細胞内局在の解明を目的とした、GFP融合タンパク質発現株を用いた実験を継続しておこなう。完全ゲノム決定に関する成果は本年度までの内容で論文として執筆し、H29年度に新たに研究を進める予定はない。 H29年度において大きな割合を占める予定であるのが、Synechococcus sp. PCC 6803 P株における粘性細胞外多糖蓄積に関する研究である。現在は多糖合成に関与する遺伝子クラスターを同定した段階であり、その中の個々の遺伝子の多糖合成への寄与や役割は不明である。更に、粘性多糖の蓄積のタイムコースや、粘性多糖の組成もまだわかっていない。H29年度は、単独遺伝子破壊株の作製と多糖の定量による個々の遺伝子の多糖蓄積への寄与の解明や、精製した粘性多糖の組成分析をおこなう。粘性という特徴から、おそらく硫酸基やウロン酸を多く含むと推測され、実際に遺伝子クラスターにはそのような基質の合成への関与が疑われる遺伝子が複数存在している。また、低温や窒素欠乏状態といった、他のシアノバクテリアで細胞外多糖の蓄積が報告されている条件での多糖蓄積も調べることで、この多糖が蓄積することの生理的な役割を追う。遺伝子クラスター内に2成分制御系の遺伝子も存在することから、環境要因とタンパク質レベルでの制御が結び付けられることを期待している。 本研究は、H28年度までの成果で複数の論文として報告できる段階にあると考えているが、論文執筆が滞っている。最終年度であるH29年度は、それらの論文の発表を高い優先順位で進めていきたい。
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Research Products
(4 results)