2015 Fiscal Year Annual Research Report
分布限界域に生育するマングローブの生理生態特性とストレス応答の評価
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15J07750
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
立石 麻紀子 鳥取大学, 乾燥地研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2019-03-31
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Keywords | メヒルギ / オヒルギ / ヤエヤマヒルギ |
Outline of Annual Research Achievements |
生育環境の変化に伴うマングローブ林の衰退が懸念されている。特に日本のマングローブ林は分布北限にあたり、その保全管理が重要な課題となっている。本研究では、億首川河口のマングローブ林において、メヒルギ、オヒルギ、ヤエヤマヒルギの生理生態学的特徴を調べて、高い土壌塩分濃度環境における各樹種の成長戦略を解明し、各樹種の生育環境への適応やマングローブ林構成樹種の分布要因を樹木生理生態の視点から明らかにすることを目的とする。 樹液流速はオヒルギがメヒルギの約2倍大きかった。樹液流速には潮汐に伴う水位変動の影響はなく、飽差よりも日射と良い相関を示した。これは本調査地の気温、飽差の日変化が小さく、日中の最大飽差も小さいため、飽差の影響を受けにくいためであると考えられる。また、本研究で得られた日単木蒸散量は、既存のマングローブ植物の蒸散量に対して小さかった。 また、オヒルギ、ヤエヤマヒルギの葉のサンプルにおいて、個葉形態の計測を行ったところ、乾重あたりの葉面積 (SLA; m2 kg-1)には、明瞭な樹種間差はなかった。乾重あたりの含水率は異なる耐塩特性を持つヒルギダマシに比べると、オヒルギ、メヒルギで大きかった。炭素の安定同位体比はメヒルギが一番大きく、オヒルギ、ヤエヤマヒルギの順に小さくなっていたことから、水利用効率がメヒルギで高く、オヒルギ、ヤエヤマヒルギの順に小さいことが明らかとなった。これまでに、3種の中ではヤエヤマヒルギ、オヒルギ、メヒルギの順に耐塩性が高いと報告されていることから、今回の結果による水利用効率の違いは耐塩ストレスによる違いである可能性が高いと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、産休・育休のため、当初の予定よりも研究遂行期間が短くなったこと、及び8月より1年間は調査地の観測メンテナンスが困難となり、そのあいだのセンサー劣化による長期データの取得が難しいと考えられたことから、今年度から開始する予定であった現場での長期観測を延期せざるを得なかった。しかし、事前サンプリングを行い、個葉形態および炭素の安定同位体比の分析による結果を得ることができた。さらに、メヒルギ、オヒルギの各5本ずつで樹液流速の事前観測を行っており、このデータ解析からも興味深い結果を得ることができた。 したがって、当初の予定は変更せざるを得なかったものの、一定の成果を得ることができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、(1)単木・個葉スケールにおけるガス交換特性と、(2)各マングローブ樹種の形態的特徴について調べ、生理生態学的特徴と形態的特徴との関連、および物理環境因子との関連性を明らかにする。また、(3)浸透調節物質による耐塩性メカニズムを明らかにし、本試験地において現時点での高塩分ストレスの影響について考察する。 このうち、軸となる内容1のガス交換特性の観測については、長期・短期ともに今年度やる予定であったが育休取得により延期した。これは、復帰予定である来年度の9月より、蒸散量観測システムの構築・観測開始を速やかに 開始する。また、現地 の潮汐、土壌の水分・塩分・溶存酸素状態の観測システムを構築し、速やかに開始する。長期観測開始後、同じ個体において、所属機関の光合成測定装置を用いて、個葉のガス交換特性の集中観測を行う。 一方で、内容2については予定通り進めることができている。来年度は成長錐により得られるコアサンプルにおいて、年輪幅、及び道管径と道管密度の計測を行い、成果を取りまとめる。 内容3に関しては、集中観測により採取した個葉試料を実験室に持ち帰り、実験室において浸透調節物質の分析を行う。得られた浸透調節の分析結果をもとに、仮説(本試験地のメヒルギ・オヒルギでは、高塩分ストレスにより浸透調節物質の蓄積が進んでおり、その傾向は上流部より河口部、河川側より陸側においてより顕著である)の検証を行い、成果を速やかに取りまとめて投稿論文を作成する。
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