2015 Fiscal Year Annual Research Report
含硫黄縮合多環化合物の効率的合成および有機電界効果トランジスタへの応用
Project/Area Number |
15J07968
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
兵頭 恵太 岡山大学, 自然科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 有機電界効果トランジスタ / フェナセン類縁体 / ポリマー半導体材料 / 溶液プロセス |
Outline of Annual Research Achievements |
有機電界効果トランジスタ (OFET) は、柔軟性および加工性に優れていることから次世代の電子デバイスとして注目されている。以前、当研究室では、高い半導体特性を示すピセンに着目し、フェナントレン骨格に二つのチオフェン環が縮環したフェナントロ[1,2-b:8,7-b’]ジチオフェン (PDT) とそのアルキル誘導体を合成し、トランジスタ特性を報告した。その結果、C12-PDT を用いて作製した素子において、最大ホール移動度 2.19 cm2/Vs を達成した。さらに移動度を向上させる手法として、π 電子系を拡張し、隣接する分子間の相互作用を増大させる手法が極めて効果的である。本研究では、ピセン骨格にチオフェン環を導入した [7]フェナセン類縁体であるピセノ[4,3-b:9,10-b’]ジチオフェン (PiDT) およびそのアルキル誘導体の合成をおこなった。また、合成した化合物群の物理化学特性およびトランジスタ特性について評価した。また,分子骨格の一部にアセン部分を組み込んだジベンゾ[2,3-d:2’,3’-d’]アントラ[1,2-b:5,6-b’]ジチオフェン (DBADT) とその誘導体の合成をおこない、トランジスタ素子へと応用した。さらに、低分子材料のみならず、ポリマー半導体材料の開発も達成した。我々が開発した PDT の合成手法を応用し、これまで報告例のない 6,12-位に可溶性側鎖として長鎖のアルキル基、またはアルコキシ基を導入したアントラ[1,2-b:5,6-b’]ジチオフェン (ADT) を開発し、2,2’-ビチオフェン誘導体と組み合わせた新規オールドナ-ポリマーを合成した。さらに、合成したポリマーの物理化学特性およびトランジスタ特性を評価し、構造-物性相関を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
PDT の合成手法を応用し、7 環系化合物である PiDT およびそのアルキル誘導体を有機電界効果トランジスタへと応用した結果、母体 PiDT において 0.84 cm2 V−1 s−1、オクチル基を導入したC8-PiDT においては最大 2.36 cm2 V−1 s−1 と極めて高いホール移動度を達成した。この値はアモルファスシリコンを凌駕する値であり、我々の考える分子設計が極めて有効であることを意味する。しかしながら、しきい電圧が 50 V と高いため、低電圧駆動を達成するためには、設計する分子の HOMO レべルを FET 素子の電極に用いる金の仕事関数 (5.0 eV) に近づける必要がある。この問題を解決するために、分子骨格の一部にアセン部分を組み込み、HOMO レべルを適度に上昇させた、ジベンゾ[2,3-d:2’,3’-d’]アントラ[1,2-b:5,6-b’]ジチオフェン (DBADT) を設計した。DBADT を含むチエノアセン分子の効率的な合成手法を開発し、その手法を用いることで種々の DBADT 誘導体の合成を達成した。また、FET 素子へと応用した結果、母体 DBADT において最大 0.78 cm2 V−1 s−1 と母体 PiDT と同程度の移動度を示し、しきい電圧が 40 V と 10 V 程度の改善がみられた。さらに、ADT とビチオフェンユニットを組み合わせた 6 種の新規オールドナーポリマーの開発にも成功しており、それらの構造-物性相関を明らかにすることができた。最大移動度は 7.2  10−3 cm2 V−1 s−1 と低い値を示したが、これは作製した薄膜の結晶性が低いことに起因していることを 2D-GIWAXS により明らかにした。これらの結果を踏まえ、低分子および高分子材料における今後の分子設計指針、および 9 環系までのチエノアセン分子の効率的な合成法を確立し、新規有機半導体材料の開発が加速度的に遂行できる点で、当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
低分子材料においては、最大 2.36 cm2 V−1 s−1 のホール移動度を達成しているため、今後、さらなる移動度の向上を目指す。さらに、実用化を考慮した場合、熱および大気安定性、低電圧駆動を満たすことが必要不可欠であるため、これらの条件を満たす新規材料の開発をおこなう。具体的には、熱安定性に関しては分子骨格の縮環数を拡張することにより達成できる。また、大気安定性に関しては化合物の HOMO レベルを 5.0 V 以下にする必要があり、低電圧駆動を考慮すると、適切な HOMO レベルは 5.1 eV 程度であると考えている。そのため、分子骨格を拡張した 7-9 環系のチエノアセン分子を合成していく予定である。分子長軸方向にアルキル基やフェニル基などの官能基を導入することで、分子間相互作用を強め、さらなる移動度の向上を達成する。 高分子材料においては、最大 7.2  10−3 cm2 V−1 s−1 と比較的低いホール移動度を示しているため、さらなる移動度の向上が必要不可欠である。この低移動度を示した一番の要因は、作製したポリマー薄膜の結晶性の低さである。結晶性を改善する手法としては、可溶性側鎖として導入したアルキル基およびアルコキシ基の置換位置を変えること、ポリマー主鎖の共平面を向上させることが有効である。合成したポリマーに導入したビチオフェンユニットは、2,2’ 位に可溶性側鎖を導入しているため、チオフェン間でのねじれが生じている。そのため、可溶性側鎖の置換位置を 3,3’ 位に変更する、ビチオフェンユニットの間にビニレンを導入し、ポリマー主鎖の共平面性を向上させるなどの手法を用い、高性能なポリマー半導体材料の開発に着手する。
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