2015 Fiscal Year Annual Research Report
米国における探究を中核に据えた科学教育に関する検討
Project/Area Number |
15J08845
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大貫 守 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 科学教育 / 教育方法 / カリキュラム / プロジェクトにもとづく科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、米国の学習科学を中核に据えた探究カリキュラム(次世代型探究カリキュラム)の独自性や意義と課題を明らかにし、日本の探究カリキュラム開発への示唆を得ることを目的としている。本年度は、ミシガン州立大学のジョセフ・クレイチェック(Joseph Krajcik)を中心とした次世代型探究カリキュラム開発プロジェクトであるIQWST(Investigating and Questioning our world through Science and Technology)の取り組みについて文献調査を中心として検討を行った。加えて、彼らが取り組んでいる「プロジェクトにもとづく科学(Project-Based Science:PBS)」の授業ビデオをもとに検討を行った。 これらの結果として、IQWSTの取り組みでは、カリキュラムの構造と教授法の以下の2点に革新性があることが明らかになった。(1)科学的な観念と科学者が探究に用いる科学的な実践(scientific practice)を組み合わせた学習パフォーマンス(learning performance)を目標として設定していること、それを反映し、生徒にとって有意味(meaningful)で科学的に価値ある問題を生徒が追求することで目標の達成を目指していた。加えて、(2)発達的に妥当な観念や科学的な実践を目標として設定するために、カリキュラム作成の際にラーニング・プログレッションズという概念発達に関する資料を活用していた。これにより、探究の方法と観念の習得を接合していた。この成果を踏まえ、国内の協力校とアクション・リサーチを実施し、その意義と課題を明らかにした。一連の研究により、日本への示唆を得ることを念頭に置きながら、米国の近年の動向をふまえて科学的探究を指導するカリキュラム作成の方略の一端を明らかにすることができたといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は、筆者が研究の対象としているミシガン大学を中心とした次世代型探究カリキュラム開発プロジェクトであるIQWSTの取り組みについて、①これらに関する文献や授業の様子を記録した動画をもとに科学的な観念の系統性や授業論に着目した分析を行うこと、②米国の科学教育の教科団体である全米研究評議会や全米科学振興協会の科学教育に関する報告書についての文献調査を進めること、③これらの団体の間で目指されている学力、授業づくりを分析・検討することを計画していた。①や②に関して、文献調査に加えてIQWSTプロジェクトを主催しているジョセフ・クレイチェック氏にメールで問い合わせ、研究に関する情報を得た。ここで得られた成果を踏まえて論文にまとめ、全国学会の紀要に投稿し、採択された。③に関して、文献調査から得られた情報をもとに京都大学大学院教育学研究科の主宰する教員研修E.FORUMで発表を行った。また、①~③で得られた成果をもとに、1年予定を前倒しし、京都市の公立小学校でアクション・リサーチを行い、これらの理論の実践上の意義と課題を得ることができた。このように、理論面に関する研究を順調に遂行するとともに、前倒しして実践研究を行っており、当初の計画以上に研究が進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を遂行していく中で、以下の2つの課題が明らかになった。①クレイチェック氏がPBSのルーツとしている1950年代後半に生じた米国の科学教育のカリキュラム改革運動(Curriculum reform movement)で、ロバート・カープラス(Robert Karplus)が作成した「科学カリキュラムの改善研究(Science Curriculum Improvement Study:SCIS)」について検討が十分にできていない点、②ラーニング・プログレッションズが基盤としているブルーナー(J.S. Bruner)の教科の「構造(structure)」論についての検討が不十分である点の2点である。そこで、来年度に向けて以下の2点の研究を進める必要がある。まず①に関して、SCISは、児童の認知の発達に関する理論を前提として、科学的な概念を探究を通して学習することを志向してきた。そのSCISのカリキュラムおよび指導法について、どのように科学的な概念の理解と探究の方法の理解を接合してきたのかという点について検討する。次に②に関して、ブルーナーの「構造」論を検討する。その際には、ブルーナーの理論の背景にあるフェニックス(P.H. Phoenix)のdisciplineの考え方やシュワブ(J.J. Schwab)の考えについてを視野に入れて検討を行うことでブルーナーの「構造」論の内実についてより精緻に明らかにする。
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