2016 Fiscal Year Annual Research Report
米国における探究を中核に据えた科学教育に関する検討
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15J08845
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大貫 守 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 科学教育 / 教育方法 / カリキュラム / プロジェクトにもとづく科学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、米国の学習科学を中核に据えた探究カリキュラム(次世代型探究カリキュラム)の独自性や意義と課題を明らかにし、日本の探究カリキュラム開発への示唆を得ることを目的としている。本年度は、昨年度に課題として残されていたクレイチェック(J.S. Krajcik)氏がPBS(Project-Based Science)のルーツとしている1950年代後半に生じた米国の科学教育のカリキュラム改革運動(Curriculum reform movement)で、ロバート・カープラス(Robert Karplus)が作成した「科学カリキュラムの改善研究(Science Curriculum Improvement Study:SCIS)」について検討を文献調査を中心として行った。加えて、米国に訪問し、資料を収集するとともに、クレイチェック氏にインタビューを行った。更に、氏の紹介のもと、PBSの理論を推進している、グリーンヒルズ学校に訪問し、実際のPBSの授業を見学し、実践の分析を行った。 これらの調査を踏まえて、クレイチェック氏の取り組みについて、主に目標の視点から分析を行った。そこでは、クレイチェック氏がパーキンス(D. Perkins)の「理解のパフォーマンス(performance of understanding)」やウィギンズ(G.Wiggins)の「逆向き設計(backward design)」論を踏まえて教科内容研究に即して目標を設定していることが明らかになった。特に、目標のレベルで科学的な観念と探究の方法を結び付けて具体的な行動の形で設定することで、科学することと科学を学ぶことを切り離さずに学習を展開することを企図していたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、クレイチェック(J.S. Krajcik)の目標論とカープラス(R. Karplus)のカリキュラムと教授方法に着目して研究を行った。文献研究に加え、次世代型探究カリキュラムの開発に取り組んでいる学校への訪問調査を行うとともに、米国の科学教育改革における中心人物であるジョセフ・クレイチェック氏へのインタビュー調査を実施した。特に学校への訪問調査では、米国でプロジェクト型の科学教育を進める中学校・高等学校の授業を見学し、教員についてもインタビュー調査を行った。また、ミシガン州立大学を中心として資料収集も行った。これらを通して、理論と実践を往還しつつ研究を進めている。この研究成果をもとに、米国の教育についての論文1本を執筆した。これは査読つきの論文であり、既に審査の結果、掲載が決定している。この研究論文は米国の科学教育の目標叙述の在り方について多角的に取り上げていた。加えて、カープラスの取り組みについては、学会発表を行うことで、その意義と課題について検討を行った。 また本年度は、京都教育大学付属桃山小学校・京都市立高倉小学校・兵庫県立尼崎小田高校・富山県立富山中部高校などとの共同授業研究にも参加し、学校現場における実践的な研究も進めた。さらに大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎の主催する課題研究評価研究会の研究協力者として、探究のカリキュラムと指導だけでなく、日本の実践現場に即した評価方法の在り方についても研究を進めた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において次の2つの課題が明らかになった。まず、クレイチェック氏がPBSのルーツとしている中等学校のカリキュラム開発プロジェクトである「物理科学の導入(Introductory Physical Science:IPS)」についての検討が不十分である。次に米国の科学的な探究の考え方の背景にある科学的な実践の考え方についても十分に検討されていない。 そこで、前者について、IPSについてカリキュラム及び指導方法の観点から検討する必要がある。これまでの研究において、当時小学校のカリキュラム開発では、主に心理学や教育学的な知見が反映されているのに対して、高等学校のカリキュラム開発では、主に親学問と言われる物理学や生物学などの個別科学の理論が強く反映されていることや、小学校がすべてのものに科学的リテラシーを求めるのに対して、高等学校では一部のエリートに対して卓越性を育むことを志向していたことなど、違いが明らかになっている。この軸に照らしつつ、中等学校のカリキュラム開発の位置づけを確認するとともに、その内実について検討を行っていくことが課題として残されている。 また後者について、2013年に米国で発表された『次世代科学教育スタンダード(Next Generation Science Standards)』では、これまでの探究の方法や科学の方法と呼ばれるものに変わり、科学的実践と呼ばれる考え方が提案されている。この実践の背景には、オズボーン(J. Osborne)氏の考え方が反映されていると考えられる。そこで、オズボーン氏の所論に着目して、その実践の内実について検討していくことが課題として残されている。来年度は、これらの2つの課題について取り組んでいきたい。
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