2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J08860
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
中村 亮太 立命館大学, 先端総合学術研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 生活保護 / 扶養義務 / 貧困報道 / 社会問題の社会学 / 福祉社会学 / 家族主義 / 生活保護の運用 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度の研究の成果として原著論文「『生活保護バッシング』のレトリック――貧困報道にみる〈家族主義を纏った排除〉現象」(『Core Ethics』Vol. 12)が掲載された。この論文は、社会問題の構築主義アプローチの立場から、生活保護における「バッシング」言説について分析し、生活保護制度においてなぜ扶養義務が厳格されうるのかについて考察したものである。この論文の意義は、生活保護制度の変質の要因としての貧困報道に着目し、生活保護における扶養義務の厳格化とは、一つの排除現象として表出しており、必ずしも家族主義的な現象とは言えないことを指摘したことにある。 国外学会における成果としては、中国で開催されたEast Asia Disability Studies Forumにおいて、“A Problem in the Administration of Public Assistance for People with a Mental Illness, Disease, or Injury” を発表した。この発表では、ある福祉事務所での生活保護運用の事例分析を行い、精神障害者に対する運用上の問題を考察したものである。生活保護制度の研究では、生活保護法だけでなく、それを運用する実施機関がどのような運用を行なっているのかを明らかにし分析することが重要である。そのため、当該発表は生活保護制度の運用の研究として重要なものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究活動においては、地方自治体の生活保護行政に関する資料の取集を行った。資料収集と並行して、ケースワーカー、生活保護利用者へのインタビューを行った。インタビュー内容は、扶養義務の運用の実態(行政側はどのようにして扶養義務の履行を求めているか、当事者側は扶養義務の履行によってどのような不利益を被っているか等)についてである。制度運用者の側と運用を受ける側という多角的な視点から情報を得られたことは大きな収穫となった。その他、貧困関連の運動団体にも資料調査を行った。 本研究における進展としては以下である。当初、本研究では生活保護制度の運用の研究のために、『生活保護手帳』の通史的な分析を行う予定だった。当該資料は厚生省(厚生労働省)によって出された通知をもとに編纂されており、この資料を分析することによって、どのような運用が行われるべきだと厚生省(厚生労働省)が規定したかを通史的に明らかにできるという利点がある。しかしながら本研究が進展するにつれて、生活保護法の運用を担う主体を細分化する必要が生じた。具体的には、生活保護の運用を実際に行うのは、地方自治体に設置されている福祉事務所のケースワーカーであるため、地方自治体が行ってきた生活保護法の運用のレベルと、福祉事務所のケースワーカーが行う現場運用については別の資料に依拠することが必要になった。そのため、本研究では、地方自治体レベルにおける生活保護の運用についても本研究の課題として設定し、自治体の生活保護関連部署に資料収集とインタビューを行った。生活保護制度の運用を研究するという枠組み自体に修正はないが、その運用を分析する際に依拠する資料、法を運用する主体を精緻化することができたという進展があったと言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策は、(1)生活保護制度の運用の研究のための理論枠組みの構築を行い、(2)生活保護の政策決定と実施過程の両側面について分析し、生活保護政策の評価を行うことである。 (1)について言えば、生活保護法の運用を担う主体を厚生省(厚生労働省)、地方自治体、実施機関(福祉事務所)の三者に設定し、それぞれ「省レベル」「自治体レベル」「現場レベル」として位置付けることを試みる。三者における相互関係を視野に入れつつ生活保護の運用の研究を進めていきたい。 (2)では、地方自治体における生活保護「適正化」政策の推進過程を明らかにしていく。とくに、1990年代以来の地方分権改革の潮流の中で、生活保護制度における地方自治体の独自性と裁量がいかにして構築されてきたのかについて明らかにし、具体的な史資料に基づいて自治体レベルでの生活保護運用がどのように行われているのかを分析する。加えて、福祉事務所での現場運用を明らかにするために、「ストリート・レベル官僚」論に依拠しながら、福祉事務所の「第一線職員」がどのような労働を課せられケースワークを行っているのかを分析する。
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Research Products
(2 results)