2015 Fiscal Year Annual Research Report
埋設型インフラと低密市街地の対話型再編計画に関する研究
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15J08940
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
児玉 千絵 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 水道 / インフラ / 公共料金 / 維持管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
埋設型インフラのサービス提供対価として傾斜料金設定を行うことの実現可能性を具体的に検討するべく、事例研究と制度レビューに集中して取り組んだ。 まず近代水道が整備される前の水供給の在り方を明らかにするため、井戸利用が盛んであった和歌山市加太の生活実態調査を行った。また現行の特徴的な事業者の事例研究として1. 群馬県長野原町上下水道課、2. 静岡県大室水道事業を選定した。1は、別荘地と通常の市街地について個別の水道事業を行っており、財政上も区別していることが特徴的である。別荘地水道料金は基本水量・料金が国内最高値の料金設定であるが、同町特有の市街地開発経緯から住民等に広く受容されていることが明らかとなった。2は民間の水道事業者としては国内最大級であり、定住者の多い別荘地という点で低密市街地を抱える公営水道事業者とより共通点の多い事業者と言えることが明らかとなった。この両者に共通するのが、水道を利用しない休止期間や利用量が0立米の月の場合も、休止料、再開手数料、契約廃止後の新規契約時の加入金、高く設定された基本料などを設定している点である。これらは顧客の解約や休止に対するディスインセンティブとなっており、結果的に安定した契約者数や収入の確保につながっていることが明らかとなった。この手数料の価格により、顧客の所有する空き家・空き地の今後の開発予定に見当がつくため、インフラ維持管理における「対話的情報」となる可能性を見出した。 また、法制度に関して判例レビューを行った結果、水道法の目的に「清浄・豊富・低廉」な水の供給が掲げられており、都市整備のような空間的・物理的インフラの整備よりも、水の質・量・値段の向上が目的であるため、水道法第十五条の給水義務を事業者が免れるには相応の「やむを得ない事情」が問われることが論点として明らかとなった。今後は、市街地の低密化がそれに該当するかを見当する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では理論モデルの構築を主な成果として予定していたが、フィールドワークを進める中で、理論的な正しさよりも、現場での慣習や法体系上のジレンマ等を丁寧にレビューしていく必要性を強く感じたため、方針を転換した。この方針転換により「埋設型インフラの対話型再編」と掲げたものに近い取り組みを行っている事業者を効率的に選定することができ、2つの現行事業者へのインタビューおよび現地調査を行うことができた。2つの事業者は、本研究の背景・目的に理解を示したため、財政情報や日常的な維持管理の取り組み、資料に残っていない歴史的経緯など、事例研究として充分な材料と協力体制が得られたといえる。 また、法体系のレビューでは、水道法、地方自治法(公共施設関連)、給水判例などを調査対象とし、広範なレビューを行うことができた。都市計画行政上、下水道は都市計画対象ではあるが、水道は水道法のもと公営企業の所管官庁である総務省の下にあり、これまで都市計画分野では研究対象として深く分析されてこなかった。よって、本研究でこれらに着目できたことが1つの大きな成果につながると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初研究計画では、 1)インフラ供給の効率性を判定する最小地区単位の検討と、非効率地域である低密市街地の分布実態解明 2)低密市街地における傾斜料金設定の検討、及び、海外事例やゲーム理論に基づくインフラ削減と世帯の住み替え推進制度の提案 3)供給対象世帯がゼロになるまでインフラ供給を継続するという従来型方針を今後も採用した場合と、上記2)で提案する対話型再編施策を採用した場合との費用および空間変化の比較 を行うことで対話的なインフラ削減の理論モデルをとしていたが、現行のインフラ事業者へのインタビュー等により、慣習や制度上の問題からライフラインとなっている埋設型インフラの空間的な縮小等は、いくら合理的であっても取り組み難いことが明らかとなった。そのため、本研究の前提として行う予定であった事例研究・法制度レビュー等に研究の中心を移し、すでに現実に行われている事例から、現行法上も実施可能な取組や料金体系を詳らかにしていく方針に転換した。 これにより、平成28年度では、国内の事例研究に引き続き取り組みながら、当初計画において予定していた理論モデルの構築よりも、国内外の事例や法制度・判例のレビューに重点を置くこととする。
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