2015 Fiscal Year Annual Research Report
クロゴキブリとその寄生性線虫からみる寄生・共生関係の進化と外来種問題
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15J09961
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
小澤 壮太 中部大学, 応用生物学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | クロゴキブリ / ワモンゴキブリ / 寄生性線虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
外来種クロゴキブリと在来種ヤマトゴキブリが生息する様々な場所で、ゴキブリに寄生する線虫の寄生状況を把握し、またクロゴキブリの寄生性線虫を様々なゴキブリ宿主に人工感染させる実験も進めることができた。膨大なデータの解析・考察から線虫種がゴキブリ目宿主に広く寄生する能力を進化させ、拡散・定着能力の極めて高いゴキブリ種を利用して、世界中に生息域を広めているということを結論できた。 日本に定着するワモンゴキブリには、安定して2種類の寄生性線虫が同時に寄生していることがわかった。そのうちの1種に関しては、分類学的データがほとんどなかった。形態計測、リボソーマル領域の配列を用いた分子系統解析、電子顕微鏡および微分干渉顕微鏡観察から、本種の系統分類学的特徴を明確にした。また、人口感染実験法を駆使して、本線虫種の感染サイクルを明らかにすることもできた。もう1種類の線虫の系統分類学的特徴についても、同様の方法で明確にすることができ、現在投稿中である。 各国ワモンゴキブリには、今回我々が明らかにした2種とは別の線虫種が寄生していたとする報告があった。そこで、インドネシアのバンダアチェ市における衛生害虫の定着実態及びその寄生性線虫に関する調査をおこなった。市街地で捕獲したゴキブリは全てPeriplaneta属ゴキブリであり、ワモンゴキブリが都市部の主要衛生害虫として定着している実態が明らかとなった。これらワモンゴキブリを解剖したところ、日本産ワモンゴキブリと同じ種類の線虫が寄生していることもわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
外来種クロゴキブリと在来種ヤマトゴキブリが生息する様々な場所で、ゴキブリに寄生する線虫を調査し、野外の寄生状況を把握し、またクロゴキブリの寄生性線虫Leidynema appendiculatumを様々なゴキブリ宿主に人工感染させる実験も進めることができた。膨大なデータの解析・考察から線虫種がゴキブリ目宿主に広く寄生する能力を進化させ、拡散・定着能力の極めて高いゴキブリ種を利用して、世界中に生息域を広めているということを結論できた。これらの結果をまとめ、現在投稿中である。 また、日本に定着するワモンゴキブリに寄生する2種類の寄生性線虫Thelastoma bulhoesiおよびHammerschmidtiella diesingiについて、系統分類学的特徴や感染サイクルを調べ、今後の土台となりうる基礎的なデータを得ることができた。それぞれのデータを論文投稿することができ、一つは採択済みである。これまでに、南北アメリカ、ヨーロッパやインド等において、ワモンゴキブリの寄生性線虫が調べられているが、今回我々が明らかにした2種とは別の線虫種が報告されている。そこで、インドネシア・バンダアチェ市における衛生害虫の定着実態及びその寄生性線虫に関する調査をおこなった。大学構内や市場・家屋などの都市部と、原生林や二次林といった自然林で、粘着トラップを仕掛けてゴキブリを捕獲した。捕獲結果から都市部の主要衛生害虫としてワモンゴキブリが定着している実態が分かり、日本産ワモンゴキブリと同じ2種類の線虫が寄生していることもわかった。ワモンゴキブリの遺伝子多型とそこに寄生する線虫種構成から、各地への分布・拡散パターンが分かるかもしれないと考え、南太平洋の島国であるフィジーにおいても調査をおこない、現在サンプルデータを解析中である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、地域間でみられるゴキブリ宿主の遺伝的多型及び寄生性線虫種構成解析を行なうための分子マーカーを検討しながら、ゴキブリはミトコンドリア領域のCO1領域とwingless領域、寄生性線虫は28S rRNA、18S rRNAの領域を取得し解析を行なっている。CO1領域や28S rRNAでは遺伝的多型も確認できていることから、引き続きこれらの領域の配列を取得・解析をおこなう予定である。 インドネシアで衛生害虫の定着実態及びその寄生性線虫に関する調査をおこなったところ、ワモンゴキブリから日本産ワモンゴキブリと同様の2種類の線虫が寄生していることがわかった。また、クロゴキブリの寄生性線虫L. appendiculatumが、別ゴキブリ種から分離することができ、この寄生性線虫は様々な宿主に寄生し、分布・拡散能力が非常に高いことも示すことができた。これらのことから、本研究の目的である寄生・共生の生物間相互関係の理解や、外来種による在来種への攪乱問題の把握を遂行していくには、ワモンゴキブリも視野に入れる必要がある。引き続きクロゴキブリ及びワモンゴキブリを対象に、インドネシアや九州・沖縄といった国内外における遺伝子多型および寄生性線虫調査をおこなう予定である。また、国内でもペストコントロール協会に依頼し、できる限り多くの地域からゴキブリを捕獲し、(1)捕獲されたゴキブリの種同定、(2)寄生性線虫の把握等について調べる。ゴキブリの基脚筋肉や、寄生性線虫を保存し、形態学的・分子額的同定や遺伝的多型解析用のデータを増やす予定である。
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Research Products
(10 results)