2015 Fiscal Year Annual Research Report
腹足綱の2大寄生性分類群における生活様式・性戦略進化パターンの解明
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15J10840
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高野 剛史 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 平行進化 / 適応放散 / 内部寄生 / 分岐年代推定 |
Outline of Annual Research Achievements |
ハナゴウナ科101種について6遺伝子座の塩基配列を取得し、ベイズ法および最尤法で系統解析を行った。あわせて、観察と文献情報にもとづき現生種の生態・形態情報を系統樹上にマッピングし、祖先形質状態を推定した。その結果、 (1) 棘皮動物の5綱全てにそれぞれ複数系統のハナゴウナ類が寄生する一方、近縁種は同じ綱の宿主に寄生する傾向が強いこと、(2) 個々の系統で、一時寄生種の塔型から永続寄生性種にみられる球形・笠型への進化と、内部寄生性の獲得がいずれも平行的に起こったことが明らかとなった。また、各種の殻について8か所を測定し主成分分析を行い、殻形態と生活様式に相関がみられるかについて検討したところ、一時寄生種の殻は細長く、永続外部寄生および内部寄生種の殻は球形であるという顕著な傾向がみられ、系統的に離れていても寄生様式が同じ種同士で殻形態が似ることが判明した。さらに、内群の化石記録を用いた分岐年代推定により、内部寄生性の獲得が比較的短いタイムスパンで起こりうることが明らかとなった。本結果により、内部寄生性の獲得を伴う寄生生物の反復適応放散を明瞭に示すとともに、寄生生物における形態・生態進化の時空分布を示した。これらの点は、他の寄生性動物における既往研究と比較しても、新奇性が高いと考えられる。 トウガタガイ類51種についても5遺伝子座の塩基配列にもとづく系統解析を行った。それにより、殻形態に基づく現行の分類体系は本科貝類の系統を反映していないことが明らかとなった。また近縁種同士が異なる海洋環境に進出している傾向がみられ、「宿主の提供するニッチ多様性が寄生者の多様性を規定する」との寄生生物の進化に一般的な仮説と整合する結果を得た。両科の多様化パターンを比較することで、寄生生物の進化に関する総合的な理解に大きく貢献すると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、寄生性腹足類の2科を対象とし、分子系統解析をベースに形態および生態の進化史を解明することを目的としている。今年度は、野外調査によって新規に得られたサンプルとパリ自然史博物館より貸与を受けている標本を使用することにより、解析に用いる種を概ね確定させた。また、ハナゴウナ科、トウガタガイ科の双方について核とミトコンドリアDNAの複数領域の塩基配列に基づく系統解析を行い、併せて現生種の生態・形態をもとに祖先形質状態を推定することで、両科貝類の進化傾向を明らかにすることができた。加えてハナゴウナ類については化石記録を検討し、分岐年代推定を行った。貝類を材料とする利点を生かしたアプローチができたものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ハナゴウナ科の進化史解明にあたり、性戦略と殻の断面構造に着目していく予定である。同科貝類には雌雄異体、雄性先熟および同時雌雄同体の種が知られ、環境性決定するものも含まれる。個体群密度の低い深海環境への進出や、寄生生活への特化に伴う移動能力の著しい低下が性戦略の多様性を生む一因と考えられるが、進化の方向性は検討されていない。あらゆる海洋環境に生息し様々な寄生生態を示すハナゴウナ類は、性戦略進化モデルの実証研究に最適な材料となりうる。 また殻については、一時寄生種で厚く内部寄生種で薄い傾向が知られており、捕食のリスクが低い後者において殻形成コストを縮減するという適応的意義があると考えられる。殻断面はいくつかの層からなるが、各層の結晶構造および厚みを観察することにより、内部寄生種がどのように資源を節約しているのか検討可能と思われる。また、系統的に離れた内部寄生種について構造を比較することで、コスト縮減のメカニズムが収斂的であるか、あるいはまったく異なるものなのか明らかにすることができると考えられる。 トウガタガイ科貝類については、大多数の種が一時寄生種であり、宿主から離れ匍匐している際に採取されることが多いことから、生態情報に乏しいのが現状である。今後、野外における詳細な調査や飼育実験を行う予定である。
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Research Products
(3 results)