2015 Fiscal Year Annual Research Report
小児患児が経験するイルネス・アンサーテンティの生涯発達的影響と発生機序を探る
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15J12105
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
石井 悠 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | イルネス・アンサーテンティ / 小児慢性疾患 / 面接調査 / 生涯発達 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、“イルネス・アンサーテンティ(IU)”について、近年注目されている不安やストレスとの関連からではなく、それが患児の生涯発達に与える影響を実証的に明らかにし、日本文化におけるその発生メカニズムを詳細に明らかにすることを目的としている。IUとは、病気や治療に関する情報の不足や過多により、個人が病気に関する出来事を評価できない、もしくは結果を予測できない状態のことを指す(Mishel, 1988; 1990)。本研究の成果は、たとえば医療現場に対して、現時のストレスを緩和することに重点がおかれている支援から、より長い将来を見据えた支援の確立に、すなわち治癒率が低いときのままになっていた心理的支援から医療技術の進歩によってのばされた命のための支援への転換に寄与すると考えられる。 本年度は特に、①日本の小児慢性疾患経験者がどのようなIUを経験し、そして、成人期前期においてどのように将来を展望しているのかを明らかにするため、②母親が子どもに対してとっていたコミュニケーションとの関連から母子のIUの関連性・連続性を検討するため、現在成人期前期にある小児慢性疾患経験者とその母親6組を対象として1対1の半構造化面接を行った。その結果、日本の小児慢性疾患経験者も、病気や治療に中心的な事柄についてのIUや病気の社会的な意味などのより周辺的な事柄に関するIUなど、様々なIUを経験していること、そして、特に、病気についての社会的な意味に関するIUと、症状や病気、治療に関する時間的な見通しに関するIUが、成人期前期における将来展望と関連することが示された。また、母親のIUは、子どものIUよりも疾患による違いが大きく、また、彼らのおかれていた状況や文脈がより強く反映されていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、日本における数少ないIU研究を行う上で、面接調査によって得られたデータの分析を丹念に行い、今後、 IUの発生メカニズムに関する実証的研究を行う上では必要かつ重要な一年だったと言える。これまで行った研究の論文化が十分に進んでおらず、次年度の課題としたいが、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の調査で得られた示唆として、疾患や診断・治療年齢によるIUの違い、母親と医療者、特に、担当医以外のコメディカルとの関連が母親のIUと密接に関連している可能性、などがあった。そのため、申請段階では予定していなかったが、今後は、より類似性の高い小児慢性疾患経験者を対象とした面接調査の実施と、母親のIUに影響を与えうる病院の中のコメディカルスタッフの役割などについても実証的に検証することも検討したい。また、現在治療中・闘病中の親子のIUの関連性・連続性についても示唆を得るべく、フィールドの確保に尽力することで、当初の目的の通り、日本の患児のIUの発生メカニズムの解明に近づくことを目的とする。
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