2016 Fiscal Year Annual Research Report
交際/商業社会の成立と展開-18世紀フランスにおける作法論と「文明化」
Project/Area Number |
15J40226
|
Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
増田 都希 成蹊大学, 文学部, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
Keywords | 18世紀後半 / フランス / 作法論 / 作法書 / 政治経済論 / 中間層 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の第一の成果は、本研究の最も重要な史料郡についての全体像をまとめたことにある。本研究の目的は、18世紀フランスにおける作法をめぐる議論を、既存の研究では看過されてきた史料群を用いて再解釈することにあり、そのための最も重要な史料群が18世紀後半フランスの「作法書」である。18世紀後半に初版を迎えた作法書135点を17世紀後半の作法書205点と比較分析し、論文として発表した。 第二に、昨年の研究会での報告をもとに、「日本18世紀学会」で研究報告を行った。18世紀後半フランスには、貴族的作法論から市民的作法論へという重要な質的変化がある。この変化を、作法論と同時代の政治経済論との緊密な関係に着目し、18世紀後半の市民論的性格を強める作法書を、国益に貢献する市民的「中間層」の教育を念頭においた作品との仮説を論証した。作法論という既存の研究で看過されてきた言説を体系的に分析した点、マルクス主義歴史観的な「ブルジョワジー」とは異なる観点から、仏革命以前の中間層を論じた点に本論の特徴があり、また意義がある。 第三は、当該期フランスの作法書の著者らの社会出自等の調査である。多くは無名の著者であり、進展は緩やかだが、18世紀後半の作法書の著者に特徴的、かつ史料が比較的豊富な数名を選び、調査を継続している。 この他、17世紀後半から18世紀中葉フランスの代表的な作法書のひとつであるA.ド・クルタン『新 フランスの上流人士の間で実践されている行儀作法論』[1671]の翻訳を進め、今夏の出版を目指している(作品社)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
作法書の著者の社会出自等の調査の進展は緩やかだが、手応えはある。その他も調査・分析はある程度順調に進んでいるが、遅れを感じているのは、成果発表(論文)の少なさと、本研究の最大の難関であるフランス革命期の資料収集の進捗状況のである。 遅れの要因は2つあると考えられる。1つは、今年度の実績報告の最後にあげた翻訳に時間を要したことである。初めて書籍として公表するため、訳語のチェックにややナーバスになっているかもしれない。ただ、自身の研究に直結する作品の翻訳であるため、長期的にみればマイナス以上のプラスがあると考えている。 2つ目の遅れの要因は家庭の事情である。一昨年度末に長男が発達障害と診断され、息子が学校生活への適応に困難を覚えている。通院、教育相談、担任・スクールカウンセラーとの面談などに加え、小学校を定期的に欠席・早退することでなんとか毎日通学する意欲を保っていることから、研究時間の確保が困難な場面がある。現在、長男の状態は落ち着いており、改善は見られる。ただ、完治し得る「病気」とは異なるため、長期的に見守る必要があり、報告者が効率的に研究を進める術を身につけねばならないと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
まず、翻訳作業はほぼ終了しており、今年度は本研究に専念し、遅れを取り戻したい。昨年度は発表論文が少なかったが、構想はできているため、夏までの間に完成させる。 今年度は、フランス革命期の資料収集と分析に注力する。膨大な史料の渉猟が求められるため、すでに着手した国内大学所蔵のフランス革命コレクションの調査では、対象を学校教育論、市民教育論に絞り、かつ書籍、定期刊行物を中心に作業を進めてきた。当初の計画では、フランスでの現地調査でビラ、ポスター、小冊子、歌など、他の媒体にも調査対象を広げる予定であったが、これらは今後の目標とし、今年度は電子化がさらに進められた全国三部会の陳情書やフランス革命初期の議会史料を扱い、国内での調査を最優先することも検討している。 作法書の著者の社会出自等の調査についても、これまでは一次史料の調査を優先させてきたが、収集済みの一次史料は断片的で、成果をまとめられる段階までは到達しなかった。今年度は、印刷史料の調査の比重を増やすなど、別の角度からのアプローチを試みる。 また、最終年度であるため、3年間の成果をフランス語での論文執筆も同時進行で進める予定である。
|
Research Products
(2 results)