2016 Fiscal Year Research-status Report
ヒトES細胞からの分化誘導システムを用いた小児固形腫瘍発生モデルの開発
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15K09651
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
梅田 雄嗣 京都大学, 医学研究科, 助教 (80397538)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ES細胞 / 小児固形腫瘍 / 神経堤細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒト多能性幹細胞であるES細胞から多くの小児固形腫瘍の起源である神経堤細胞(NC細胞)およびその分化細胞を選択的に増殖する培養システムを用いて、(1)小児固形腫瘍の発生モデルの開発(2)本発生モデルを用いたがん幹細胞の出現様式に基づくがん発生メカニズムの解明と新規治療開発を行った。 未分化ヒトES細胞を無血清培養条件下でNodal/activinインヒビター(SB431542)を投与すると、分化6日目にCD271強陽性のNC細胞が全培養細胞の50~80%で検出された。リアルタイムPCRでは、得られたNC細胞はNC細胞の発生・生存(FOXD3)、NC由来の分化細胞(SOX10、SOX9)に関連した遺伝子が高発現していた。続いてNC細胞をフィブロネクチンでコートした培養皿上でSB431542+ bFGF存在下で培養すると、CD271陽性CD73陽性の骨・軟骨前駆細胞、分化3日目からGSK-3インヒビター(CHIR99021)を投与するとGD2を高発現している交感神経系様前駆細胞が高頻度に認められた。 ヒトES細胞からNC細胞およびその分化細胞の分化誘導過程において発現する様々な細胞表面抗原の網羅的スクリーニングを行った結果、悪性ラブドイド腫瘍、神経芽腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫などの小児固形腫瘍に共通してCD146が発現していた。続いて悪性ラブドイド腫瘍細胞株をCD146陽性・陰性細胞に分離すると、CD146陽性細胞は高いin vitro増殖能およびin vivo腫瘍形成能を示した。さらに、悪性ラブドイド腫瘍細胞株を免疫不全マウスへの皮下移植した後に抗ヒトCD146ウサギポリクローナル抗体を投与すると、著明なin vivo抗腫瘍効果を示し、本疾患における新規治療法として有用である可能性が高いことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究における最大の目標は小児固形腫瘍の発生モデルを用いた小児固形腫瘍共通の細胞表面抗原をターゲットとした抗体治療などの新規治療の開発である。昨年度の検討では、ヒトES細胞からNC細胞またはその分化細胞の分化誘導過程において発現が確認されたCD271・CD73・CD146・GD2などの細胞表面抗原が小児固形腫瘍に発現しているのか、フローサイトメトリーを用いた解析を行った。その結果、様々な小児固形腫瘍の細胞株・臨床検体の大多数においてCD146を発現している腫瘍細胞が確認された。さらに、極めて予後不良な小児固形腫瘍の一つである悪性ラブドイド腫瘍において、CD146ががん幹細胞に特異的に発現する細胞表面抗原である事、抗ヒトCD146抗体が新規抗体療法の有用な治療ターゲットとなり得る事を強く示唆する結果が得られた。CD146は悪性ラブドイド腫瘍以外にも神経芽腫、ユーイング肉腫、横紋筋肉腫、骨肉腫などの様々な難治性小児固形腫瘍で発現が確認されているため、今年度はCD146を小児固形腫瘍がん幹細胞特異的な細胞表面抗原の第一候補として、小児固形腫瘍に共通して使用出来るモノクローナル中和抗体の作成を目指していく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27・28年度の検討で明らかとなった結果を元に、今年度以降は以下の研究を推進して行く予定である。 (1)ヒトES細胞から選択的に増殖させたNC細胞やその分化細胞に対して、 INI1やPhox2Bなどの遺伝子欠損はノックダウン、EWS-FLI1やPAX3/7-FOXO1などのキメラ融合遺伝子はノックインにて遺伝子異常の再現を試みる。遺伝子導入したNC細胞や分化細胞のin vitro増殖能、in vivo腫瘍形成能を解析し、小児固形腫瘍発生モデルとしての有用性を検討する。 (2)高い抗腫瘍効果を有する抗ヒトCD146ポリクローナル抗体を産生するウサギのリンパ節・脾臓から可変領域ライブラリーを作成し、その中から結合親和性、特異性の高い候補クローンを組み換え抗体スクリーニング系を用いて高い腫瘍増殖抑制効果を有する抗ヒトCD146ウサギモノクローナル抗体を得る。 (3) 野生型悪性ラブドイド腫瘍細胞株とshRNAを用いてCD146の発現を抑制した細胞株のマイクロアレイ解析を行い、両細胞群間における細胞増殖・生存維持・代謝・アポトーシス・エピジェネティクス等に関連した遺伝子発現プロファイルの違いを比較することにより、CD146を介した抗腫瘍効果のメカニズムについて検討する。
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Causes of Carryover |
下記使用計画のため、次年度も研究費が必要となる。経費の主要な用途は培地、抗生物質、ウシ血清、培養フラスコ、ピペットなどのプラスチック器機、成長因子、抗体、PCRプローブ、免疫不全マウス、RNA抽出・リアルタイムPCR・免疫染色に関連した試薬の購入である。また情報交換や学会で研究成果を公表するための出張経費も適宜必要となる。これらを本研究経費から支出することは妥当と考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1)ヒトES細胞から選択的に増殖させたNC細胞やその分化細胞に対して、 INI1やPhox2Bなどの遺伝子欠損はノックダウン、EWS-FLI1やPAX3/7-FOXO1などのキメラ融合遺伝子はノックインにて遺伝子異常の再現を試みる。遺伝子導入したNC細胞や分化細胞のin vitro増殖能、in vivo腫瘍形成能を解析し、小児固形腫瘍発生モデルとしての有用性を検討する。(2)ウサギのリンパ節・脾臓から可変領域ライブラリーを作成し、組み換え抗体スクリーニング系を用いて高い腫瘍増殖抑制効果を有する抗ヒトCD146ウサギモノクローナル抗体を得る。(3) 野生型悪性ラブドイド腫瘍細胞株とshRNAを用いてCD146の発現を抑制した細胞株のマイクロアレイ解析を行い、CD146を介した抗腫瘍効果のメカニズムについて検討する。
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