Research Abstract |
新しい計測原理を提案し,計測法として実用化することを目標に,薄膜の構造解析を念頭に置いた新しい分光分析法を考案して2002年にJ.Phys.Chem.B上に公表した.これは,光の進行方向に平行な電場振動を持つ‘仮想光'を回帰式に組み込んだ特異な考え方に基づいており,計測理論そのものは幾分わかりにくい側面を持っていた.一方,実際の測定では,薄膜への入射角を変えていくつかのシングルビームスペクトルを測定するだけでよく,きわめて簡単に実施できる.この方法を,多角入射分解分光法(multiple-angle incidence resolution spectrometry ; MAIRS)と名づけ,本研究の基礎が出来上がった. その後,MAIRS法の基礎研究を開始し,基本原理の従来理論との対応関係の整理と,適用範囲の探索を開始した. 赤外MAIRS法は,仮想光と回帰式という特殊な発想に基づくため,得られる成果も特殊なもので,少なくとも次のものが成果として得られた. (1)非金属表面で純面外振動スペクトルの測定が可能 (2)面内振動スペクトルと面外振動スペクトルが同時にひとつの試料から測定可能 (3)透過光学系から反射スペクトル相当の結果が得られる (4)偏光子なしに偏光スペクトル相当が得られる (5)光学定数なしに分子配向を定量的に解析できる などである. そこで,こうした可能性を応用研究にも展開し,異常プリオンの分子凝集解析,非共有結合性ポリマー材料の創出に関する研究,マイクロチップ上での表面コーティング解析に関する研究などに展開した. 本基盤研究による研究展開は概ね順調に推移し,研究成果が出始めた初期の段階で科学技術振興機構・さきがけ「構造機能と計測分析」に採択され,研究がさらに加速した.また,MAIRSの原理とその応用的成果について,堀場雅夫賞を頂くことにもつながった.
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