2005 Fiscal Year Annual Research Report
フランス・ルネサンス文学に見る「暴力」-「暴力の福音化」から「福音の暴力化」へ
Project/Area Number |
16520168
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Research Institution | Aoyama Gakuin University |
Principal Investigator |
平野 隆文 青山学院大学, 文学部, 助教授 (00286220)
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Keywords | 仏文学 / 西洋史 / 宗教学 / ルネサンス / 魔女 |
Research Abstract |
本年度はフランス国立図書館(以下、B.N.)などから取り寄せたパンフレなどの分析に多くを費やした。宗教戦争の最中に、プロテスタント陣営、カトリック陣営の双方がばらまいたパンフレに於ける「暴力的言辞」を炙り出すことができた。クレスパンやオットマンらが、相手陣営を「悪魔」や「冒涜」および「涜神的言辞」と結び付けて、言わば人心に敵陣営への恐怖心を刻みつける手法が、かなり明らかになったと思われる。とくに、カトリック側が、聖体拝領の儀式やその他ミサの具体相を破壊しようとするプロテスタントの筆法の背後に、悪魔の存在を措定しているその実態が、様々なパンフレから浮かび上がってきた。 さらに、前年度に着手したピエール・ド・ランクルに於ける「境界侵犯への恐怖」という主題をさらに深く抉りだし、バスク地方に於ける暴力的な魔女狩りを指揮したこの法官の書が、種族や言語に於ける境界侵犯への恐怖に支えられている点を明らかにし、その分析結果を紀要論文として公にすることができた。特に注目すべき点は、ド・ランクルの書物が、旅行記に於ける通訳の問題と、完全な平行線を辿っていることであろう。異文化との仲介項であった通訳に対する、漠然とした不信感と恐怖心の源を、異文化に取り込まれることへの恐怖心と並行して論じることができたのは、大きな成果だったと考える。 なお、アグリッパ・ドービニエに於ける暴力描写、特に、カトリーヌ・ド・メディシスと宗教戦争との関係を記述した場面についても、既に分析を施し始めている。現世に於けるカトリックの暴力が、来世に於ける地獄と関連付けられる一方で、現世に於ける「暴力の犠牲者」たるプロテスタントには、来世に於ける「天の至福」が準備されている、という観点からの詩作術が浮かび上がってきて、大変興味深い。ただし、結論を得るにはさらなる分析を進める必要がある。 ラブレーについても新たな分析を加えつつある。初期の作品である『パンタグリュエル物語』に於いて多用されているスカトロジーが、相手への暴力的調刺と結び付くのに対し、後期の『第三之書』、『第四之書』では、糞尿譚(スカトロジー)が、道徳的諷刺と密接な関係を結ぶようになる、という仮説まで行き着いたが、この点も改めて検証せねばならない。次年度の課題と言ってよいだろう。マルグリット・ド・ナヴァールの『エプタメロン』については、暴力的描写(近親相姦、強姦など)が、実は「影の主題」に過ぎず、真の主題である「福音主義的信仰のあり方」を逆照射する「文学的装置」として活用されているという仮説を得ることができたが、この点もさらなる検証によって補強する必要があるだろう。
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Research Products
(1 results)