2004 Fiscal Year Annual Research Report
河川漁業と生態環境との関連-鵜飼等の漂泊的移動行為と生態環境との対応を中心に-
Project/Area Number |
16520500
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
伊東 久之 岐阜大学, 教育学部, 教授 (10126724)
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Keywords | 鵜飼 / アユ漁 / フナ漁 / 筑後川 / クリーク / 鵜の越年 / 鵜捕り神事 / 鵜祭り |
Research Abstract |
本年度は、従来ほとんど研究のなかった九州地方の鵜飼漁と、鵜の越年方法を重点的に調査した。なかでも重要な発見は、筑後川水系中流域の鵜飼漁(福岡県杷木町・田主丸町など)では、冬の間は下流の佐賀県佐賀市および神崎郡の農家に貸し出しをおこなっていたことである。農家では田んぼの周囲を縦横に走るクリークで、冬の間、主にフナ漁をおこなうのに鵜を使う。このため、預かり賃などは発生せず、貸す側も借りる側も時期を違えて鵜飼漁をおこない、相互に補完しあっているわけである。こうした形は筆者が類型化を試みている鵜の越年方法の(1)餌飼型でも(2)里子型でも(3)放鳥型でもなく、新たに(4)貸与型とでもいうべき型があることを示しており、類型の再検討を迫られた。中流域ではアユの専業漁民が鵜飼漁をおこない、下流域では農家の兼業として冬のフナ漁に鵜飼をおこなうのである。その両者の間で鵜の貸し借りするという協業関係を形作っており、この地方に特徴的なコイ漁と合わせ、日本の河川漁業を考える上で重要な示唆を与えてくれる。 いっぽう、同じ筑後川水系でも上流域の大分県日田市では鵜の貸し借りはおこなわず、冬の間は鵜使い自らが、支流の河川を順に廻って鵜に餌を取らせて越年をはかる(1)餌飼型であった。同じ河川ながら、上流域と中流域とでの越年方法の大きな差は、後背地として多くの支流をもつか、あるいは平野のクリーク地帯をもつかといった地理的環境の違いによるものと思われる。 また、本年度の調査では能登半島で現在も続けられている鵜捕りの行事(神事)を調査した。その鵜は羽咋市の気多大社まで鵜籠に入れて運ばれ、深夜に社殿および神社前の浜に放って、その年の豊凶を占う「鵜祭り」に用いられる。その鵜捕りの部分は秘儀として公開されていないが、聞き取りと一部の文献から、鵜飼の鵜の捕獲方法とほぼ変わらないことが確認された。また、後半の鵜の放鳥も鵜飼の越年方法(3)と類似しており、鵜飼漁との関連を考えなければならないところまで来ている。
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