2018 Fiscal Year Research-status Report
マインドフルネスに基づくソーシャルワーク専門職エンパワメント・プログラムの開発
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16K04226
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
池埜 聡 関西学院大学, 人間福祉学部, 教授 (10319816)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マインドフルネス / ソーシャルワーク / 援助関係 / 社会福祉士 / 精神保健福祉士 / エンパワメント / ストレス低減 / 価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の成果は以下の5点にまとめられる。 1. 情報交流を目的としたインターアクティブなホームページを公開した。 2. 客員研究員(Visiting Project Scientist in Psychiatry)として米国カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部マインドフル・アウェアネス・リサーチ・センター(MARC)に1年間在籍し、米国のマインドフルネス実践の現状と課題の抽出、そしてMARCとの研究・実践における連携体制を構築した。 3. MARC提供の1年間マインドフルネス指導者養成プログラム、マインドフルネス・ファシリテーション・トレーニング(Training in Mindfulness Facilitation: TMF) を修了。認定資格であるUCLA-Trained Mindfulness Facilitator 及びInternational Mindfulness Teachers Association (IMTA)-Certified Mindfulness Teacher (CMTP-0146)を取得し、ソーシャルワーク(SW)専門職のストレス低減を超えたSWの価値の体現に資する介入方法としてマインドフルネスを応用する理論と実践方法を修習した。 4. 日本マインドフルネス学会及びオックスフォード大学マインドフルネス・リサーチ・センター(OMC)共催によるマインドフルネス認知療法(MBCT)指導者養成プログラム(最終モジュール)を修了。スーパーバイズを受けることでMBCT実践が可能な立場となった。うつ再発予防及びストレス低減などSW専門職のエンパワメントにMBCTを活かす道筋を明確化した。 5. TMFとMBCTの比較に基づくマインドフルネス指導者養成の問題、トラウマ被害者などへのマインドフルネスのネガティブな影響、SWの価値に資するマインドフルネスのあり方などをテーマにした学会発表、論文出版及び論文投稿を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度は、UCLA MARCに拠点を置くことで米国のマインドフルネス推進者とのネットワークを構築するとともに、マインドフルネス・プログラムの多様性、リスク要因、指導者養成方法の理解が深まった。特に、米国を中心に開発が進む社会的排除に見舞われた人々、例えば貧困、ひきこもり、災害被災者、外国人労働者、性的少数者などの心理社会的問題に対するマインドフルネス方法論「エンゲージド・マインドフルネス」の習得は、研究開始当初に予測していたストレス低減やバーンアウト抑制を超えた、価値と技術の両側面からSW専門職をエンパワメントしていくマインドフルネスを見通すことにつながった。 この新たな視点を本研究に統合させるため、平成30年度はマインドフルネスが米国を中心に個人化あるいは世俗化された経緯を歴史的に探求し、マインドフルネスが本来包含していた慈しみの心性、社会的弱者の包摂、そして深い内省とトラウマからの回復などの機能を明らかにした。その研究成果は論文として学術誌に投稿している。同時に、平成30年度は米国において社会的弱者としての生きづらさに伴うトラウマへのアプローチとしてマインドフルネスが果たす役割と危険性について重層的なトレーニングを受け、SW専門職が日々接する被虐待や劣悪な環境で生活を余儀なくされている人々への支援にマインドフルネスを応用する方法の獲得を優先させた。 以上の平成30年度で生まれた本研究を深化させる方向性を確固たるものにするため、SW専門職に対するオンライン調査の実施計画の見直しと研究会の展開及び成果報告方法の再検討を行う必要性が生じた。ストレス低減やバーンアウト抑制を促す認知制御の枠組みにとどまらないマインドフルネスの役割と機能の明確化を通じて、重層的にSW専門職をエンパワーしていくマインドフルネス・プログラム構築を令和元年度において達成していく。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度は、以下の項目を設定して研究を推進していく。 1. 研究最終年度として、これまで集積された成果(包括的文献研究、研究会成果、調査結果、実践経験、UCLA MARCとの連携、TMFによる指導者養成課程、 日米マインドフルネス推進者とのネットワーク、日米でのトレーニング経験など)に基づくSW専門職のエンパワメントに資するマインドフルネスの理論と方法を集約した書籍の出版。平成29年度に出版した認知制御及び援助関係の涵養を機序にしたマインドフルネス(「福祉職・介護職のためのマインドフルネス」中央法規出版)を拡充・深化させ、SWの価値、社会正義の実現に根ざすマインドフルネスからSW専門職をエンパワーしていく方法に言及した書籍を目指す。 2. 本書籍の内容に呼応した「マインドフルネスに基づくSW専門職エンパワメント・プログラム(MB-SWEP)」の構築とホームページ上での方法論の公開。ストレス低減、バーンアウト抑制、二次受傷予防、援助関係の涵養、SW価値(社会正義、命の尊厳・尊重、社会的包摂など)の内在化、そしてSW価値の体現に通じるマインドフルネスの発信と改訂を継続していく。また、MB-SWEPの普及を目的としたワークショップや研修会を兵庫県社会福祉士会など関係団体及び機関との連携を元に開催していく。 3. 医療化、個人化、世俗化されたマインドフルネスへの批判と社会的弱者に追いやられた人々の包摂に資する「エンゲージド・マインドフルネス」をテーマに加えた研究会の活性化と成果の取りまとめ。社会正義の価値に資するマインドフルネスのあり方の検討からSWとマインドフルネスの融合可能性を検討し、SW専門職をエンパワーしていく方法を記録・発信していく。
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Causes of Carryover |
平成30年度はUCLA MARCを拠点にしていたため、米ドルの円換算において変動があったことと、そして平成31年3月に参加を予定していたSW専門職を含む対人援助職対象のマインドフルネス・トレーニングが所属先での会議と重なったことで不参加となったため、次年度の使用額が発生した。次年度使用額は、「マインドフルネスに基づくSW専門職エンパワメント・プログラム(MB-SWEP)」の掲載に伴うホームページ充実化のための諸経費として活用する予定である。
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Research Products
(6 results)