2016 Fiscal Year Research-status Report
凝集誘起発光色素とAβ凝集促進ペプチドを用いたAβの簡便な定量法の開発
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16K08952
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Research Institution | Konan University |
Principal Investigator |
村嶋 貴之 甲南大学, フロンティアサイエンス学部, 教授 (20263923)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 凝集誘起発光色素 / アルツハイマー / アミロイドβ / テロメア / 立体障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
ガン細胞の無限増殖のカギを握っているテロメラーゼの活性はテロメア鎖の長さを測定することによって見積もることができる。本研究では、テロメア鎖の相補鎖であるオリゴヌクレオチドに凝集誘起発光(AIE)色素を結合させたプローブを用いてテロメア鎖長の決定を行った。その結果、テロメア長が長くなればなるほど蛍光強度が増加し、蛍光強度からテロメア鎖長、すなわちテロメラーゼの活性を見積もることができることがわかった。 この現象をアルツハイマー病の早期診断(アミロイドβ(Aβ)の定量)に応用することを目指した検討も行っているが、そのためには蛍光強度が変化する原因を特定する必要がある。様々な鎖長のテロメアを用いた検討により、その原因がテロメア鎖とプローブが二重鎖を形成したときに生じる、AIE色素とDNA二重鎖間の立体障害による回転障壁であることを明らかにした。したがって、Aβと相互作用したときにAIE色素が効果的に立体障害を受けるようなプローブを設計する必要があり、その戦略として、Aβの凝集を促進するペプチドにAIE色素を直接結合させたプローブを用いることとした。ただし、DNAに比べてペプチドは疎水性が高いため、DNAで用いたものと同じAIE色素を用いた場合には水溶液中でプローブ自身が凝集してしまい、バックグラウンド蛍光の原因となる。したがって、この検討に用いるAIE色素としては水溶性の高いものが求められる。水溶性の高い実用的なAIE色素はあまり知られていないため、そのような性質を持つ色素の合成を検討したところ、テトラフェニルエチレンのフェニル基の一部を4-ピリジル基に替え、ピリジン環を酸化してピリジン-N-オキシドにした化合物が、高い水溶性と凝集誘起発光の性質を兼ね備えていることがわかった。今後、この化合物を用いてプローブを合成し、Aβの定量について検討する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
AIE-DNAプローブを用いることでテロメア鎖長の定量、すなわちテロメラーゼの活性測定が可能であることが示された。これは、凝集誘起発光(AIE)色素を用いた早期診断法の開発という視点から見ると、ガンの早期発見につながる可能性がある。また、この手法は従来のテロメラーゼ活性測定法に比べて、PCRや電気泳動といった、時間がかかり作業者の技術に左右される要素の多い手順を含まず、試料にプローブを加えて蛍光を測定するだけといった極めて簡便な手法であることも、大きな利点である。 この「AIE色素と生体分子を結合させたプローブにより、ターゲットとなる生体分子を定量する」という概念を、他の疾患のバイオマーカーの定量に応用するためには、蛍光の増大が起こる原因を明らかにする必要があるが、本研究における検討で、プローブに含まれるAIE色素とターゲットとなる生体分子間の立体障害がAIE色素の凝集と同様の効果を与え、蛍光強度が増加することも明らかにしている。次のターゲットとして選んだアルツハイマー病では、アミロイドβを定量することになるが、そのために用いるAIE色素は高い水溶性をもつ必要がある。こうした考察に基づき、既存のAIE色素の構造を変更することで、容易に水に溶けるAIE色素を開発した。 以上の理由から、本研究は概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、アルツハイマー病の早期診断(アミロイドβ(Aβ)の高感度定量)においては、水溶性の高いAIE色素の開発が求められるが、その候補化合物としてすでに3種類の新規AIE色素を合成しているので、次の段階としては、まず、これらの化合物をAβの凝集を促進することがわかっているペプチド鎖に連結したプローブを合成する。目的のプローブが合成できれば、様々な濃度のAβにプローブを加えて蛍光強度を測定し、Aβの濃度の定量が可能かどうか検討する。 また、ペプチドの凝集はDNA二重鎖の形成に比べてはるかに遅い過程であり、したがってプローブの添加から蛍光測定までに時間を要したり、凝集の程度によって蛍光強度が変化し、定量性に悪影響を及ぼす可能性があるため、こうした要因を排除するための測定プロトコルを決定する。
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Causes of Carryover |
ペプチド合成用試薬およびアミロイドβの購入を予定していたが、今年度は本研究の目的に合致したAIE色素の合成に比重を置いたため、試薬購入に掛かるコストが当初見込みより少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度に購入予定であったペプチド合成用試薬およびアミロイドβの購入と、その他の有機合成試薬、ガラス器具の購入にあてる。また、論文掲載料や研究打合せ旅費等による使用も計画している。
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