2016 Fiscal Year Research-status Report
免疫記憶による自然免疫の腸管粘膜における制御-寄生虫感染系を用いた解析-
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16K15269
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
石渡 賢治 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (00241307)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 免疫記憶 / 粘膜免疫 / 寄生虫感染 / 再感染防御 / 自然免疫 / 腸管粘膜 / 腸管寄生線虫 / Heligmosomoides |
Outline of Annual Research Achievements |
消化管(腸管)粘膜では免疫記憶に基づく再感染防御が成立し難い。とくに寄生虫感染は慢性に移行し、何度も感染する。腸管寄生線虫であるHeligmosomoides polygyrus(Hp)は、マウスに慢性感染するものの、再感染に対しては早期に腸管腔から排除される。この感染型幼虫は経口的に侵入し、一旦小腸組織内の筋層で発育してから腸管腔で成虫となる。申請者は、初感染を駆虫した後4週での再感染時の、小腸筋層内のHp数が初感染時のそれよりも有意に少ないことに着目した。筋層内のHp数の減少は、小腸粘膜組織内への侵入が阻止されていることを示している。これは、何時再びHpが粘膜内へ侵入するかわからない状況で、免疫記憶を司るリンパ球が長期間にわたり、腸管粘膜の防御の一線を担う自然免疫系をなんらかの経路で制御していることを示唆するものである。この免疫記憶による自然免疫の腸管粘膜における制御機序の解明は、粘膜感染症であるインフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、ヒトパピローマウイルス(HPV)や、赤痢などの病原性細菌等々の予防へも繋がる。 H28年度は以下の結果を得た;1、再侵入阻止は初感染でHpが最も侵入する小腸上部1/6で起きている、2、再侵入阻止は初感染終息後4週よりも8週でより強く、10週でも初感染に比して有意である、3、再侵入阻止はヘルパーT細胞タイプ2(Th2細胞)に依存するが抗体の関与はほとんど認めない、4、筋層での発育による病巣の一部が8週まで維持されている、5、RNA-seq解析で幾つかの候補遺伝子を拾い上げることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本実験系は、初感染による免疫誘導後、駆虫(初感染後2週)して感染を終息させてから腸管の炎症等の鎮静を待って再感染させ、その侵入率を6日目に観察することから、最短で7週を要する。今回、step by stepの進め方が必要であったために時間を要した。とくに、初感染終息後4週よりも8週で阻止能が強かったことから、10週まで調べざるを得なかった点も影響した。また、RNA-seq解析にも時間がかかり、組織切片上での質量分析委託(Bruker Daltonics K.K.)については未だ解析が終わっていない。レクチンを用いた粘液の組織学的糖鎖解析が、手技のミスからやり直しとなってしまっている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.粘膜上皮細胞間および上皮細胞の粘膜面、さらに粘膜上の粘液の組成・構造の変化を質量分析中 (委託先;Bruker Daltonics K.K.)であり、その結果とRNA-seq解析との関連から、さらに解析を進める。 2.レクチンを用いた粘液の組織学的糖鎖解析を、質量分析結果を踏まえてやり直す。この解析は、Hpと粘液および粘膜上皮細胞との接着に関与する分子を含む。 3.RNA-seq解析によって、いくつかの遺伝子の変動が認められた。まず、これら遺伝子産物のインヒビターを用いて、その影響を確認する。一方で、遺伝子を発現する細胞を欠失させた状態での再侵入阻止能を検討する。さらに、遺伝子産物の粘膜上皮細胞への作用をin vitroの系で分子レベルにまで掘り下げて解析する。 4.感染終息後4週の腸管組織より分離したリンパ球を未感染マウスへ移入し、侵入阻止が付与さえるかどうかを検討する。付与されるならば、移入細胞を絞り込み、寄与する細胞の表現型および組織内分布を特定し、さらに何が影響を受けたのかを追求する。付与されないならば、初感染によって活性化した細胞の関与が示唆される。RNA-seq解析および質量分析結果との兼ね合いで、候補細胞を絞り込み、遺伝子改変動物あるいは中和抗体投与によって候補細胞を欠失した状態での侵入阻止能を検討する。 5.再侵入阻止の抗原特異性を調べるために、小腸粘膜組織内へ侵入する別種類の寄生虫(小形条虫Vampirolepis nana; Vn)を用いる。Vnの虫卵感染では、小腸で孵化した六鉤幼虫が粘膜固有層へ侵入して発育するが、数日後に同再感染させた六鉤幼虫は侵入を完全に阻止される;この機序は未だに不明のままである。Hp感染によって誘導されたHpの再侵入阻止が、Vnの組織内侵入を阻止するかどうか、さらに逆パターンについても検討する。
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Causes of Carryover |
組織切片上での質量分析委託(Bruker Daltonics K.K.)について、未だ解析が終わっていないために未支払いとなっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記解析結果が出た後、その費用を支払う。
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Research Products
(2 results)