2006 Fiscal Year Annual Research Report
ニュートン主義と宇宙論的人間主義:外部性の内在化としての啓蒙の成立
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17520069
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長尾 伸一 名古屋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (30207980)
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Keywords | ニュートン主義 / 啓蒙思想 / 宇宙論 / 英仏比較 / 道徳哲学 / 江戸時代 / 世界の複数性 / 機械論 |
Research Abstract |
本年度はブリテンのニュートン主義における世界の複数性論の進展を資料に即して検討した。そのため研究会を開催するとともに、国内外で資料調査を行った。また海外現地調査では、あわせてイタリア・ルネサンスからフランス近代への展開をも視野に入れた。さらに国内、大英図書館で総合的な英語圏での出版物の電子文献データベースであるEEBO, ECCOを用いた調査を行い、資料収集をほぼ完了させつつある。また2006年度社会思想史学会大会でセッションを組織し、18,19世紀の英仏における科学の展開と社会科学の形成とのかかわりを議論した。 その結果、以下の諸点についてディックやクロウら科学史家の学説の確認することができた。 (1)複数性論は多数派ではないにせよ、古代思想に広範に分布していて、その点からは古代は複数性、単数性の二つの立場が併存していた。その点で近代の複数性論は地動説によって創造されたのではなく、それによって形態を変えたと考えられる。 (2)世紀末に複数性論の立場からキリスト教を批判したペインに対する批判は、複数性そのものに対するものではなかったことに示されているように、18世紀末から19世紀前半にかけて、複数性は科学によって論証された学説とみなされていた。そのため福音主義もこれを吸収して、科学的信仰となろうとしていた。 また以下の点で、あたらしい所見を得ることができた。 (1)ホイヘンス以前にも複数性をめぐる議論が展開していた。その広がりはさらに探求される必要がある。 (2)啓蒙期にはインドや中国やラテン・アメリカなどが複製論を批判する立場から、これらの哲学が記述されていた。複数性論は他文明とのかかわりでも重要だった。 これらの知見をまとめ、本年度では19世紀以後の複数性論の衰退を、啓蒙から19世紀にいたる知性概念の転換としてとらえるという構想を得ることができた。それはデカルトも保持していた、心の根底から神や世界や宇宙に接合している脱世界的な古代的知性から、計算能力という世界内的な、適応能力としての知性への転換である。次年度はこの仮説を論証し、研究を大成することを目的とする これらの成果の一部は、スコットランド啓蒙の社会、政治思想の概要と、複数性論のかかわりについて、英語論文にまとめ、発表した。
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Research Products
(1 results)