2007 Fiscal Year Annual Research Report
ニュートン主義と宇宙論的人間主義:外部性の内在化としての啓蒙の成立
Project/Area Number |
17520069
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
長尾 伸一 Nagoya University, 大学院・経済学研究科, 教授 (30207980)
|
Keywords | ニュートン主義 / 啓蒙思想 / 宇宙論 / 英仏比較 / 道徳哲学 / 江戸時代 / 世界の複数性 / 機械論 |
Research Abstract |
本研究では国内外での啓蒙研究、科学史研究の現段階を踏まえつつ、申請者の従来の社会科学史研究、スコットランド啓蒙思想研究、ニュートン主義研究によって得られた知見をもとに、新しい視点から啓蒙とヨーロッパ近代思想の形成におけるニュートン主義の役割を再評価することを目的とした。そのために、現代とは異なった自然科学と社会倫理との関係を描き出し、それをヨーロッパと同様に近代天文学と古代的伝統が交叉した18、9世紀東アジア思想の変容と比較検討することをめざした。 その結果、啓蒙の自己言及的な理性がニュートン主義的世界像とかかわっていることを明らかにし、その背後に古代世界から継承された世界の複数性概念が、近代天文学の宇宙像によって復活したことが要因となったことを解明した。ニュートン主義は自然と社会とに関する言説空間がいまだ分節化されていない18世紀に、ボトム・アップ型の方法によって、自然と社会的倫理の総合を達成する方向を指示した点に意義を持っていた。しかしその中から近代の普遍的人間主義が誕生した。なぜならニュートン主義はフォントネルが切り開いた宇宙論的な普遍主義を、創造神としての神を中軸にして、より既存思想に親和的な形で緩和し、敷衍し、『人権宣言』や「合衆国憲法」の人間主義に存在論的、宇宙論的根拠を与えたからである。それはキリスト教的・宇宙論的人間主義と呼ぶことができる。啓蒙思想のこの次元は、19世紀の「世界の複数性」論争や功利主義の発展等を通じて、宇宙と道徳世界の切断が進行することによって失われることとなった。こうしてニュートン主義はヨーロッパの伝統知の再編を促し、結果的に近代思想の触媒となった。また本研究は江戸期日本のニュートン主義にも複数性概念があり、それが儒教的世界観と矛盾なく共存していたことを示した。
|
Research Products
(4 results)