2017 Fiscal Year Annual Research Report
The Movement of Genbun'icchi and National Language Policies in Meiji Japan and Their Influences upon East Asia
Project/Area Number |
17H00895
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
林 少陽 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (20376578)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
陳 力衛 成城大学, 経済学部, 教授 (60269470)
三ツ井 崇 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60425080)
村田 雄二郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (70190923)
岩月 純一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (80313162)
野平 宗弘 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 講師 (80711803)
|
Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 漢文訓読 / 明治期の筆談 / 江戸の会読 / ヨーロッパの「国語」成立との比較 / 漢字圏の言文一致 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度において本科研は、「言文一致・国語施策」以前」という問題意識から、江戸教育のありかたと明治十年代・二十年代の言語状況について主に研究を行った。次のような密度の高いワークショップを行った。1)2017年7月13日にワークショップ「筆談資料から見た言文一致――国語施策における日本の中国への影響」が開催され35名の参加者がいた。中国から来た王勇教授と劉雨珍教授は明治10年代・20年代における日中文人・政治家による筆談について発表した。筆談は、言語が通じなくても、漢学の素養さえあれば、漢文、漢詩を用いて書道で交流することができるので、それ自体は言文一致そのものを考えるに別の角度を提供できたといえる。2)7月15日にワークショップ「江戸の読書方法と訓読文」が開催され、前田勉教授は江戸の会読について紹介した。身分や地域の違いを超え、対等な立場で学びあう会読と、敬語を排除した漢文訓読体は、幕末から明治にかけて四民平等の理念を体現する革新的なものとなった経緯が紹介された。3)9月19日にワークショップ「書記言語規範の東西比較について」が開催され、ラテン語文化圏と漢字文化圏の比較に主眼を置いている。原聖教授は、「書記伝統のなかの標準規範に関する歴史的東西比較研究」にかかわる研究成果を紹介した。ギリシャ語・ラテン語のヨーロッパにおける役割と漢文の東アジアにおける役割の比較は興味深い。またヨーロッパの「国語」成立における口語の書記化と韻律化の問題は言文一致自体の幻想を考えるのに示唆的である。4)2018年1月にワークショップ「漢字圏の視点での言文一致」を行った。前半では、高麗大学の李漢變教授が19世紀末韓国における言文一致の一端を明治日本との関連で考察した。茨城大学工学部共通講座の村上雄太郎(レー・ヴァン・クー)教授は後半で、現代ベトナム語における漢越語の使用状況を統語関係から考察した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本科研は綿密な研究活動を企画し実施することで当初の計画以上に進展している。それぞれのメンバーによる個別研究活動以外に、メンバー全員合わせて年に四回ものワークショップ・講演会を合同で行ったことで、視野を大きく広げることができ、共同研究の良さを実感することができた。特に当初計画していなかっラテン語文化圏と漢字文化圏の比較は、ヨーロッパの「国語」形成におけるにおける書記家(Scribes)の重要性がとても示唆的であり、書記による韻律化という概念が漢字圏の国語形成を考えるのにも有効であると考えられる。言文一致自体の問題もこのような事実・概念によって問われたといえる。また、当初企画にはあるが、そんなに具体的な計画がなかった筆談の問題も漢字圏特有の課題として重要であることが実感された。筆談文体の二つの特徴として、「談草」と呼ばれるような「雑乱無次」、「不暇文辞」の一面がある一方、「通於天下、達於古今」の「斯文」の一面もあるという指摘がワークショップのなかで提起された。これらの特徴は筆談と言文一致との関係を考えるうえでは興味深い。そして明治初期・中期の筆談は中日両国の参加者だけでなく、朝鮮の文人も関わっているということで、漢文によってある文の共同体の存在と、国語によってそのような共同体の弱体化という事実が見えるようになった。これらの視点の獲得は予期していない展開であるといえる。年度最後のシンポジウムは朝鮮と越南の言文一致問題に絞ったが30名近くの参加者から綿密な議論があり、共同研究の場でしか学ぶことができない知識とそのような場でしか獲得することができない視点を獲得できたと実感した。当初の研究計画より進展していることで30年度の計画もかなり具体することが出来たといえる。本研究課題を大きく推進することができ、ある程度の社会的効果があると自己評価したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は、前年度における「江戸」の全面的な見直しという成果を踏まえ、明治の「言文一致・国語施策」を、実際の歴史的出来事のレベルと、言説のレベルにおいて考察する。明治期における「江戸時代」の表象・認識についての調査を行い、言文一致・国語施策」の発展の視点から雑誌『太陽』などの役割を調査する予定である。また、同時代の東アジアにおける漢字廃止論の日・中・韓・越における系譜の解明も試みる。そして、清朝官僚・学者と明治の官僚・学者との書簡、筆談などの史料における日本の「言文一致・国語施策」についての議論も調査する予定である。また、近代朝鮮の知識人・官僚による日本の「言文一致:国語施策」の認識の解明も試みる。最後にはベトナムの「国語」の登場は一九世紀六十年代以来のフランス植民地政策によって推進されたものであるが、日本の「言文一致:国語施策」とベトナムの「国語」との関係・関連の調査を試みたい。 具体的な企画としては2018年秋に同志社大学で一日シンポジウム「「方法としての江戸」と「明治日本」:東アジアの言文一致運動を捉え直す」(仮題)を行う予定である。31年春には国際シンポジウム「<清末>と<幕末>:<明治>を介して見た言語的近代中国」(仮題に)東京大学で行う予定である、また「江戸時代の漢語の日本語化」という題目の講演会も企画される。今年度は査読付きの英語論集Literary Chinese as the Common Enemy: East Asian Written Languages’ National Turn from 19th Century to Early 20th Century(仮題)の原稿をアメリカの大学出版社に出すことをも目標として努力したい。余力があれば年度内にも全く同じ内容の中国語論集の出版も準備される。
|
Research Products
(28 results)