2017 Fiscal Year Annual Research Report
三次元極小界面における脂質分子ダイナミクスの解明と革新的脂質キュービック法の開発
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17H03038
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
一川 尚広 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 特任准教授 (80598798)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
渡辺 豪 北里大学, 理学部, 助教 (80547076)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 脂質キュービック法 / 液晶 / ジャイロイド / シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
一般的な脂質キュービック法において、水とモノオレインの2成分からなる液晶マトリックスが用いられている。しかし、水の揮発やモノオレイン中のエステル部位の加水分解反応などに起因する成分変化などがマトリックスの一義性を失わせるため、系中における膜タンパク質の結晶化現象に関する定量的理解の妨げとなっている。また、室温以下においてモノオレインが結晶化してしまうという点も汎用性拡大の妨げである。上記の問題を解決する方法論として、溶媒の改変に着手した。溶媒として、イオン液体(常温で液体の有機塩)を用いる方法論も検討した。特に、イオン液体と水の混合溶媒を用いることで、イオン液体の吸湿性・強い水束縛力により、水分が蒸発してしまわない液晶マトリックスや低温でも結晶化しない液晶マトリックスを期待した。 様々なイオン液体を用いて検討したところイオン液体のアニオンとしてアスパラギン酸またはグルタミン酸を使って作製したイオン液体を用いることで、長期安定性の高いキュービック液晶マトリックスを作製することができた。また、様々な条件化での経時安定性や格子長と溶媒組成依存性などを明らかにすることができた。これらについては既に論文として投稿した。 双連続キュービック液晶状態において、脂質分子はジャイロイド極小界面に沿って二分子レイヤーを形成している。脂質分子はこの界面に沿って三次元的に拡散することができる。この界面に沿った脂質分子ダイナミクスをシミュレーションするにあたり、まずはフラットな界面に脂質分子と水分子を適切な割合で配置・配列し、それぞれのダイナミクスを調べた。各種パラメータ(単位格子中の脂質分子数・分子配置位置・分子のコンフォメーション・圧力・力場パラメータなど)を適切に定めることで、現実系を再現できるようパラメータの最適化を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
モノオレインとイオン液体を組み合わせることで従来のキュービック液晶マトリックスにおける様々な課題をクリアした媒体を作ることができた。水とはまったく異なる溶媒であるイオン液体を用いてこのような場を実現できたことは大きな進展である。 また、モノオレインのダイナミクスに関してシミュレーション解析を進める中で、分子の初期構造・初期配置などに関する条件を精査することができ、これも大きな進展である。
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Strategy for Future Research Activity |
イオン液体を用いて特異な脂質キュービックマトリックスを作製することができたので、今後はこのようなマトリックス内に膜タンパク質を導入する方法の開発を進める。また、マトリックス内における脂質分子の拡散挙動などの解析を行うことで、溶媒として水を用いた場合との比較を行い、この脂質キュービックマトリックスの物理化学的な性質を明らかにする。分子の拡散挙動方法論として、蛍光消光法、パルス磁場勾配NMR 法、および光退色後蛍光回復法などが一般的である。キュービック液晶状態のサンプルに関しては、パルス磁場勾配NMR 法が有用であるため、この手法を主に検討する。 シミュレーションによるダイナミクス解析に関しては、フラットな界面上にモノオレインを配列した系に関しては概ね現実系と相関が取れてきたので、今後はジャイロイド界面のような曲面の形成メカニズムや曲面上でのダイナミクスに関して明らかにしていく。
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