2017 Fiscal Year Annual Research Report
神経分化や行動による遺伝子発現とヒストンH2A.zによるエピジェネティック制御
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17H04981
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
山田 朋子 筑波大学, 医学医療系, 助教 (00447559)
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Project Period (FY) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 遺伝子発現 / 学習と記憶 / 小脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
小脳における学習と記憶のメカニズムを核内の現象に着目して明らかにすることを目的し、マウスにおいて行動などの刺激によって活性化された顆粒細胞におけるH2A.zの役割を明らかにすることが目的である。本年度は、共同研究者が新たに開発した小脳依存的な学習と記憶のパラダイムを用い、行動実験後にマウスの小脳組織を回収し、遺伝子発現をNGS (Next generation sequencing) により解析した。cfosをはじめとするIEGsはマウスの単純な歩行によっても活性化されるので、学習と記憶に関与する遺伝子群をマウスの単純な動きによって活性化される遺伝子群から分離するために、統計的な手法を用いた。多くのサンプルからなるRNAシークエンスのデータを用いて、統計的に似た挙動を示す遺伝子をグループ分けするWGCNAを用い、52のRNA-seqのデータセットより、マウスの小脳における遺伝子発現を26グループに分類した。得られた26グループを詳細に解析した結果、あるグループは細胞特異的、例えばグリア細胞や顆粒細胞に高発現する遺伝子群を含んでいることが分かった。またあるグループは刺激によって誘導される遺伝子群、IEGsを含んでいた。そして興味深いことに、異なった行動によって異なった組み合わせのグループが活性化されることがわかった。また単純な歩行、学習と記憶のいずれの行動実験においてもIEGsが強く活性化されていた。次にそれらの遺伝子上におけるH2A.zの機能を調べるためにChIP-Seqを行なった。光遺伝学を用いて神経細胞の脱分極を誘導し、H2A.zの振る舞いを調べると、遺伝子発現の誘導とH2A.zの局在は反相関関係にあった。現在は追加実験とデータ解析を行っており、それが終わり次第論文にまとめる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
通常、マウス個体において、歩行や記憶などの刺激は組織全体の数パーセント以下の非常に少ない神経細胞のみを活性化するので、活性化した神経細胞を集めて生化学的な解析をすることは難しい。特にゲノム解析は、多くの活性化した細胞集団を必要とする。そこでTRAPと並行して、optogenetics (光遺伝学)を用いて人工的に神経細胞の脱分極を誘導し、遺伝子発現のメカニズムを明らかにすることにした。小脳依存的な学習と記憶の行動実験において、光遺伝学を用いて小脳のある特定の神経細胞を活性化することで、記憶を誘導できることを確認した。共同研究によりこれらの一連の動物実験を行い、私は特に光遺伝学によって脱分極が誘導された神経細胞群の生化学的な解析を行った。成熟した神経細胞における遺伝子発現において、ゲノム環境の変化などのエピジェネティック制御は未だに明らかではない。そこで私はまずゲノム上のヒストン修飾を網羅的に解析する、クロマチン免疫沈降とシークエンシング(ChIP-seq)を行った。特に転写活性化に伴うヒストン修飾、アセチル化H3K27やヒストン異性体H2A.zの局在を調べた。また遺伝子の上流に存在する転写制御領域、プロモーターを特定するためにトリメチル化H3K4の局在を調べた。すると興味深いことに、遺伝子発現の誘導と遺伝子プロモーター上におけるアセチル化H3K27の修飾はほぼ相関関係にあることが分かった。また遺伝子発現の誘導とH2A.zの局在は反相関関係にあった。現在は追加実験とデータ解析を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの研究によって、成熟した神経細胞において、脱分極に伴う遺伝子発現の誘導が遺伝子のプロモーターとエンハンサーの活性化を伴うことを観察した。特にIEGs (immediate early gene) において複数のエンハンサーが活性化されることは興味深い。近年の研究より、様々な培養細胞において、上流からの刺激によって活性化したプロモーターとエンハンサーの物理的距離が近くなることが報告されている。そこで、成熟した神経細胞におけるゲノム高次構造と遺伝子発現の関係を調べるために、遺伝子発現の誘導に伴うゲノムの高次構造の変化の解析を行う。方法としてはマウスを用い、光遺伝学によって活性化された細胞を用いてHiC (in situ chromosome conformation capture with high-throughput sequencing) やPLAC-Seq法 (proximity ligation-assisted ChIP-Seq) を行う。得られる細胞数が少ないこと、また細胞が密集した小脳組織であること、などが原因で様々な技術的な問題が考えられ、現在これらを解決するために条件検討中である。またこれらシークエンスによる方法に加えて、FISH (Fluorescence in situ hybridization) などのイメージングを用いたゲノムの核内における局在を解析する予定である。これらの結果とH2A.zやヒストン修飾の結果を合わせ、成熟した神経細胞における遺伝子発現誘導のメカニズムを解明する。またここで得られる光遺伝学による知見に加え、行動などの生理学的な条件によって誘導される遺伝子発現にも注目して研究を行う。
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Research Products
(2 results)