2018 Fiscal Year Annual Research Report
世紀転換期の英仏米におけるロシア研究―対露認識をめぐる比較文学比較文化史的考察
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17J00009
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
松枝 佳奈 筑波大学, 人文社会系, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 比較文学 / 比較文化 / The Russian Review / Bernard Pares / Maurice Baring |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の研究実施計画が変更となり、当初、同年10月に予定していた英国での資料文献調査を、令和元年8月に実施した。19世紀後半から20世紀初頭の英国で活躍したロシア研究者たちの活動やその対露認識の趨勢を平成29年度よりもさらに実証的かつ詳細に明らかにするため、大英図書館、ロンドン大学スラヴ・東欧研究科附属図書館、リヴァプール大学附属シドニー・ジョーンズ図書館にて調査を行った。 その結果、ロンドン大学スラヴ・東欧研究科附属図書館とそのアーカイヴにアクセスし、英国のロシア研究をリードしたロシア史家のペアズ(Bernard Pares, 1867-1948)の自筆メモ・書類・書簡、旧蔵資料を総体的に調査することができた。いずれの資料も日本国内ではその存在を知られておらず、英国でも多くはペアズとイギリス内外のロシア研究者、ロシアの知識人との緊密な協力関係、当時のロシア研究を推進するペアズのリーダーシップを裏付けるものであった。またペアズは神戸の在日ロシア人経営の出版社と関係があり、日露経済専門雑誌『日露実業新報』第五年三月号(1919年3月)を所蔵していたことも判明した。さらに英国のロシア研究誌The Russian Review(1912-1914)の創刊や発行について関係者たちとの往復書簡や原稿・資料の送付の記録を複数確認した。その他の図書館では、ペアズと同様にロシア研究に携わった文学者のベアリング(Maurice Baring, 1874-1945)の活動を示す資料や記録、回想など、日本でアクセスが困難な文献を重点的に調査できた。 調査の結果、当時の英国のロシア研究者たちがロシアの自由主義的知識人たちと積極的に交流し、彼らの政治改革を後押ししつつ、英国における建設的なロシア理解の普及のため、学術とジャーナリズムの両方から精力的に活動したことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成30年度に交付された科学研究費を活用することで、英国の図書館および大学図書館で短期間ながら集中的に文献・資料の調査を行うことができた。それにより、ロンドン大学スラヴ・東欧研究科附属図書館とそのアーカイヴで、ペアズ・コレクションの総体的な調査を実施できた点は、当初の計画を大きく上回る実績となったと考える。20世紀初頭の英国のロシア研究者たちの活動の実態やロシア研究観をより実証的に把握することができたといえるだろう。 また過年度に比べて、日本国内で閲覧や入手の難しい英露関係史関連の文献や過去の学位論文、20世紀初頭のロシア研究者たちが関係した書籍や雑誌をより多く閲覧した。英国での調査結果とも照らし合わせながら、英露関係史のなかでペアズやベアリング、その他の英国のロシア研究者たちの対露認識や思想を考察することが可能になったと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度科学研究費の執行で得られた英国での調査結果が当初計画以上となったため、調査内容の整理と分析を継続する。平成31(令和元)年度の研究成果と合わせることで、同年度中に学会口頭発表や所属大学の紀要への論文投稿につなげられると考える。それによりしかるべき研究成果として公表することを目指す。 同時代の米国と仏国のロシア研究については、平成31(令和元)年度の科学研究費により、米国と仏国のロシア研究者たちの著書を入手し、その調査研究を実施する予定である。ペアズやベアリングらの回想で言及され、英米仏に滞在しながら英国のロシア研究者と交流したロシアの知識人たちの記録や関係文献の調査をさらに進めることで、19世紀後半から20世紀初頭までのロシア研究の実態を、欧米側とロシア側の両方の視点から考察する予定である。
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Research Products
(1 results)