2018 Fiscal Year Annual Research Report
親集団の学習と変容を基盤とした障害者の地域自立支援プロセスに関する研究
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17J00792
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
橋田 慈子 筑波大学, 人間総合科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 自立 / 障害 / 親 / 家族 / 青年期 / 成人期 / 教育 / 学校改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、障害のある子どもを持つ親たちの学習実践が、障害のある人々の自立にいかなる影響を与えてきたのかを明らかにするものである。 2018年度は、昨年度の研究の延長として、1980年代英国で制度化された「保護者代表理事(Parent Governor)」の学習と通常学校(Mainstream Schools)の教育改革の関係を分析した。保護者代表理事の組織が刊行した資料を収集し、彼/彼女らとともに研修会を実施してきた障害当事者への聞き取り調査も実施した。その結果、①ロンドンの各地で、1990年頃から保護者代表理事の組織が結成され、②障害児の親である代表理事を中心にして通常学校の教職員や他の理事を対象にした研修会が開催されていたことが明らかになった。また③障害児の親、当事者との議論を経て、そうした人びとが通常学校に関わる枠組みが構築されていったようすも明らかになった。 さらに2018年度は、親元からの「自立」が求められる青年期・成人期の家族支援の取り組みにも注目して研究を進めた。ロンドン地区の成人教育機関の職員が刊行した著作物を収集・分析するほか、元職員等への聞き取り調査も行った。その結果、①1970年代の政策文書を通して、英国では成人教育が障害者家族の自立に貢献することが求められていった、②そうした政策を背景にして、内ロンドン地区の成人教育職員が、障害者とその親、それぞれの「自立」に向けたニーズを顕在化させる調査研究に取り組み、③他の機関(社会福祉サービスや民間団体)の関係者と家族を取り巻く問題を共有し、家族の自立を支えるようになっていたことが明らかになった。このような成人教育職員の践は、家族による無償のケアと「依存」を前提としたコミュニティケア政策に拮抗するものであり、1990年代以降の「非家族主義」政策の土壌を形成していったといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
すでに2018年度の成果は、2つの関連学会で研究発表を終えており、論文化を予定している。なお、現地調査の際には、ロンドン大学の研究者や、元成人教育職員等とともに研究討議を実施しており、自身の問題意識や研究内容、日本の障害者の自立をめぐる状況について英語で発表し、研究上・教育実践上のアドバイスをいただいた。また、インクルーシブ教育を進めている学校の関係者にも聞き取り調査を行ったり、運動の最前線に立ってきた当事者への聞き取りも行うことができた。このように2018年度は、実地調査を複数回にわたって行い、必要な情報を収集しつつ、自立に関する教育実践を展開してきた当事者や元職員への聞き取り調査を実施することができた。そのため、当初の計画以上に研究が進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
障害のある子どもと親、双方の自立を促すためには、自立を支える制度づくりの必要があることも明らかになってきた。いかなる人びととのネットワーキングが社会運動や制度改革を引き起こすために求められるのか。今後は、障害のある子どもを持つ親の学習と社会運動、そして制度改革との関係を、理論的な観点から解明し、教育実践への示唆を得ていきたいと考えている。
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Research Products
(5 results)