2017 Fiscal Year Annual Research Report
イルカの早期妊娠診断マーカーの確立と臨床応用に関する研究‐miRNAを指標に‐
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17J00949
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
瀬川 太雄 三重大学, 生物資源学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | イルカ / miRNA / 妊娠診断 / 健康管理 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年のいわゆるJAZA問題(イルカ漁業からの飼育個体の確保を日本動物園水族館が中止する決定)以降、国内の水族館は新たなイルカの入手を飼育施設内での繁殖のみに切り替えることが喫緊の課題となった。イルカを効率よく繁殖させるためには、健康管理技術の向上が必須条件であるが、現状が続けば今後20年間で国内におけるイルカ飼育頭数は4分の1以下に急減するという試算もあり対応が急がれている。 早期に不受胎イルカを判定できる方法があれば、速やかに再授精を行うことができ、飼育下でのイルカの繁殖効率を向上させることができると期待される。そこで平成29年度は、近年早期妊娠診断マーカーとしての利用が期待されているmiRNAに着目し、ヒトの胎盤で高発現し、妊娠診断マーカーとしての利用が期待されているmiR-141を対象にイルカ胎盤での発現と妊娠期間との関連性を調べた。その結果、イルカの胎盤においてもmiR-141の特異的高発現が確認され、胎児の成長と胎盤でのmiR-141の発現は強い相関性を持つことが明らかになった。さらにイルカ由来の培養細胞は恒常的に細胞内で発現しているmiRNAを細胞外に分泌し、イルカにおいても臓器特異的に発現するmiRNAは診断マーカーになることが示唆された。次に水族館で妊娠したイルカの血液を集め、妊娠期間におけるmiR-141の発現を調べることを試みた。予備実験として妊娠イルカ(n=4)の血中miR-141の発現を調べ、miR-141は妊娠イルカのみで検出される傾向はあったが、妊娠期間と発現量に相関性がないことが多かった。妊娠中のイルカは感染症等の疾病になることが多く、その治療には母子ともに危険が伴うため行われないことが多い。この現状から妊娠中の母体の健康状態がmiRNA濃度に影響している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書の中で平成29年度内に計画していたイルカの胎盤で高発現しているmiRNAの同定と妊娠イルカの血清中での発現の確認を実施した。妊娠診断マーカーになりえるmiRNAは妊娠イルカのみで検出される傾向はあったが、妊娠期間と発現量に相関性がないことが多かった。妊娠中のイルカは感染症等の疾病になることが多く、その治療には母子ともに危険が伴うため行われないことが多い。この現状から妊娠中の母体の健康状態がmiRNA濃度に影響している可能性が示唆された。一方、この問題はイルカの基礎免疫力を上げることや、園館で蔓延する病原体を調べることで打開できると考えられる。そこで、当初計画を遂行するためには、イルカの健康管理がより重要課題と考え、乳酸菌に着目、糞便の16Sメタゲノム解析を行い、有用な乳酸菌を特定し、新たな培養法も考案し、分離にも成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
一般に乳酸菌は、宿主の免疫力を高めると同時に、宿主の健康を害する細菌の増殖を抑制し、感染症防御力を上げることが知られている。とくに多くのイルカの腸内に常在する乳酸菌は、イルカに対して安全性と健康効果が高く、イルカの健康維持・増進に重要な役割を持つと推測される。そこで平成29年度に、イルカの健康維持・増進に役立つと思われる乳酸菌を分離・同定をするために、イルカ糞便の16Sメタゲノム解析を行った。解析した全個体でエンテロコッカス属およびバゴコッカス属の乳酸菌が検出され、これらの乳酸菌はイルカの健康維持・増進に役立っていると推測された。次にイルカの腸内細菌叢は、肉食海水魚に酷似するという報告を参考にし、海水含有の培地を用いて乳酸菌の分離を試み、16Sメタゲノム解析で検出された乳酸菌の分離に成功した。分離同定された乳酸菌の中でも、Vagococcus fluvialisは、哺乳類に対する病原性が報告されてなく、また魚類の健康増進剤としての利用が期待されている。さらに本乳酸菌は、イルカの消化管内から分離した細菌の中でも、病原菌の多いグラム陰性菌に対してのみ選択的に抗菌活性を示し、乳酸菌には珍しく鞭毛を持つため、イルカに対して独自の免疫活性が期待された。そこで、平成30年度は、本乳酸菌のイルカへの投与を行い、本乳酸菌の有用性をイルカ腸内における病原細菌遺伝子や乳酸菌数への影響や免疫誘導能を調べることで明らかにしていく予定である。さらにイルカで多発する胃疾患の原因を追究し、本乳酸菌を用いて予防法が確立できるか検討する予定である。
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Research Products
(5 results)