2017 Fiscal Year Annual Research Report
フランス近世における歴史批評と無神論社会―ベールを中心に―
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17J00954
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
谷川 雅子 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ピエール・ベール / ポール・ロワイヤル / 歴史批評 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、ピエール・ベール『歴史批評辞典』における歴史批評の形成を、アルノーとニコル『ポール・ロワイヤルの論理学』との関連を中心として探ることを目的とした。そのため、注目した点はベールとポール・ロワイヤルがともに、歴史学を「学問(もしくは確かな認識)science」と考え、歴史を、個々人の主観的な証言に依存するあやふやなものとみなす同時代のデカルト的な考えから離れることを確認した。 ベールの歴史批評と、デカルト的な歴史観との関係を探る上で重要になるのが、マルブランシュの 立場だと思われる。ベールは初期作品『彗星雑考』において、マルブランシュ『真理の探究』と呼応する形で、彗星を災いの予兆とみなす伝統的な迷信を退ける。しかし、マルブランシュがデカルトに倣い、歴史を他人の意見を暗記するだけのものとみなし、歴史学を軽視するのに対し、ベールは歴史を確かな学問知に至るものとして重視する。このベールの立場は、ポール・ロワイヤルへ近づく。 こうしてベールの立場は、同時代的にはポール・ロワイヤルやマルブランシュとの関係においていちづけられるが、伝統的には、ベールが育ったプロテスタントのアカデミーでで支配的だったアリストテレスとスコラ学の教育に影響されていると考えられる。スコラ学者メンドザやリパルダは、歴史認識が、証人の一致という確実な根拠によって「物理的証明」の域にまで達すると考える。ベール、ポール・ロワイヤルはこのような流れを受けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、当初考えていたベールとポール・ロワイヤルとの関係だけでなく、ベールとマルブランシュと相関も描き出すことが出来た。また、ベールとスコラ学との関係では、当初の研究計画で想定されていた、メンドザだけでなく、リパルダのような新たなスコラ学者も視野に入ってきた。 そのため、調査対象となる資料が増え、研究成果のアウトプットが少なかったことを反省点としたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度を通じて、ベールの『歴史批評辞典』における歴史へのまなざしが、ポール・ロワイヤル、マルブランシュ、スコラ学の総括となっていることが確認できた。 来年度は、この成果をより実証的な形で示すため、フランスなどでの資料収集を行う予定である。その上で、研究成果の口頭発表、公刊論文の形でのアウトプットを行う。
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