2017 Fiscal Year Annual Research Report
ジル・ドゥルーズ『シネマ』読解を中心とした映像空間の本性の研究
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17J01509
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
福尾 匠 横浜国立大学, 都市イノベーション学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | ドゥルーズ / 映画 / ベルクソン / 現代フランス哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究は、研究課題名にもあるジル・ドゥルーズ『シネマ』の解説書の執筆を中心として行われた。本書は2018 年6 月にフィルムアート社より刊行を予定している。日本に類書のない本書は今後の『シネマ』研究の礎となるだろう。世界的な視野で見ても『シネマ』のシステマティックな読解を試みた例は少ない。その理由はとりもなおさず、『シネマ』においては映画史的な順序に沿って論述が進められるために、論述の推移にしたがっている限りドゥルーズの他の著作とくらべてきわめて「読みやすい」ものであるからだろう。この読みやすさが逆説的に、論述の推移の向こうに透かして見られるべき、概念的なシステムの機序を見ずにすまさせてきた。『シネマ』第一巻と第二巻、つまり運動イメージと時間イメージの関係という『シネマ』をめぐるもっとも中心的な問題でさえ、戦前(映画)と戦後(映画)という歴史性に回収されてきたのであり、これは『シネマ』研究の代表的な文献であるDork Zabunyan, Gilles Deleuze : Voir, parler, penser au risque du cinema (Presses Sorbonne Nouvelle, 2006)においても超えられていない課題であった。「この研究は映画史ではない」という宣言とともに始められる『シネマ』を映画史的な推移から独立した哲学的な概念のシステムとして再構築することは『シネマ』研究の喫緊の課題であり、これに対して一定の回答を与える本書は大きな影響を与えるものであるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29 年度、私は研究課題の中心的対象である、ドゥルーズ『シネマ』の哲学的解明に取り組んだ。同書は20 世紀末に映画史・映画理論研究に大きなインパクトを与え、映画史に即した読解が多くなされてきたが、私はこれを明確に哲学的概念の体系として読解することを試みており、ドゥルーズ研究上重要な意義がある。本研究は『シネマ』の哲学的「解説書」として、平成30 年度にフィルムアート社から出版されることが決まっており、大学での研究を超えて社会的インパクトを持つことが予想される。原稿はすでにほぼ完成しており、1 年間の研究として十分な進捗がある。上記の研究と並行して、私はドゥルーズ哲学における芸術の問題を「非美学」という大きな枠組みで捉える研究を開始しており、これは平成30 年度以降に学会発表・査読論文発表の形で公開されることが期待される。また私は平成29 年度、研究課題である「映像空間の本性」の解明に向けた取り組みのひとつとして、現代の映像表現についての批評を影響力の大きい商業雑誌等に複数発表した。これは作品創造の現場に介入する哲学の実践であり、研究の一部をなす重要な仕事として評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究は主にジル・ドゥルーズの『シネマ』の解説書を執筆することにあてられた。この研究は他のドゥルーズの著作を読むための道筋を作るための足がかりとなるものであった。具体的には、80年代から前景化する「言葉と物」の二元論的な図式が、キャリアの前期に思考された「超越論的経験論」の発展されたものであること、そしてそれは哲学と芸術の関係性において、彼の哲学の内容だけでなく方法をも形作っているということを、『シネマ』の詳細な読解が教えてくれた。今後はこのような視座の元ドゥルーズの著作の包括的な研究を行うとともに、一般に「ポスト構造主義」と呼ばれる哲学者たちのなかでドゥルーズが占める特異な立ち位置と、他の哲学者たちに共有されていた問題意識について研究する。
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