2017 Fiscal Year Annual Research Report
測度距離空間の収束による構造の安定性と無限次元空間への応用
Project/Area Number |
17J02121
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
数川 大輔 東北大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 測度距離空間 / 曲率次元条件 / Cheegerエネルギー汎関数 / ファイバー制御条件 / 次元が無限に発散する測度距離空間列 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は, 測度距離空間の曲率次元条件の安定性とCheegerエネルギー汎関数の収束に関する研究を行った. 曲率次元条件とは測度距離空間におけるRicci曲率の下限条件に相当する条件であり, Cheegerエネルギー汎関数とは測度距離空間におけるDirichletエネルギー汎関数に相当する汎関数である. 測度距離空間列がなんらかの意味で収束するときにこれらがどのような振る舞いをするかを調べることは極限空間や測度距離空間列自体の性質を知る上で重要な研究の1つである. 特に本研究は次元が無限に発散する列に対してこれらの振る舞いを調べることを目的としていた. 次元が無限に発散する列を取り扱うため, 昨年度から今年度にかけて新たに考案したファイバー制御条件という条件をもとに研究を進めた. ファイバー制御条件とは2つの測度距離空間の間の写像が曲率次元条件およびCheegerエネルギー汎関数を保つための十分条件である. この条件により, 次元が無限に発散する測度距離空間列をそれらの曲率やエネルギー汎関数の情報を持つ次元が発散しない列に対応させることで, 次元が無限に発散する測度距離空間列の情報の一部を引き出すことができるようになった. 主な結果として次の2つが挙げられる. (1)ファイバー制御条件を満たす写像が曲率次元条件およびCheegerエネルギー汎関数を保つことを示した. (2)Gigli-Mondino-SavareによるpmG収束をファイバー制御条件を用いて一般化し, その収束の下で(次元が無限に発散する測度距離空間列を含む)曲率次元条件が安定であること及びCheegerエネルギー汎関数がMosco収束することを示した. しかし2018年4月にファイバー制御条件はGalaz-Galcia, Kell, Mondino, Sosaによって異なる動機の下で定義されたMetric Measure Foliationとの同値性が指摘され, 条件自体の新規性および主結果(1)の一部は彼らの研究に含まれることを注意しておく. 現在, この指摘を元に論文を改定中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画の段階では, 集中位相という位相の収束によるリーマン曲率次元条件の安定性問題を考えていた. そのための足掛かりとして始めたファイバー制御条件の研究が想像以上に発展を見せた. 集中位相とファイバー制御条件によるpmG収束の一般化は互いに独立した概念であり各々でのみ収束する測度距離空間列が存在する. 共通の特徴は次元が無限に発散する測度距離空間列が収束列として含まれているということである. ファイバー制御条件によるpmG収束の一般化は集中位相より扱いやすく, 本年度はこの収束においてリーマン曲率次元条件の安定性のみならずCheegerエネルギー汎関数のMosco収束などより高度な現象をとらえることができた. 前述のとおり4月現在惜しくも条件の新規性は失われたが, 新たに次元が無限に発散する測度距離空間列に対する研究手法を開発できたのは大きな進展であると考える. これらの状況を踏まえ, 研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の主な研究課題として次の4つが挙げられる. (1)ファイバー制御条件を用いたpmG収束の一般化において, 収束列がいつスペクトル収束するかを調べる. (2)集中位相による収束列に対して, ファイバー制御条件を用いたpmG収束の一般化の収束列に対する結果が成立するかを調べる. (3)集中位相による2つの収束列に対して, それらの直積による列が収束するかを調べる. (4)次元が無限に発散する測度距離空間列の具体例としてn次元楕円面の列について考察する. (1)について, Gigli-Mondino-SavareによってpmG収束する測度距離空間列はスペクトル収束することが知られている. 今回の一般化した収束ではスペクトル収束しない例がある一方でpmG収束に含まれないスペクトル収束する(次元も無限に発散する)例があることが分かっている. 一般化したpmG収束においてスペクトル収束のための必要十分条件を特定することは非常に興味深い問題である. (2), (3)について, 当初の計画通り集中位相という位相の性質を明らかにするべく研究を行う. (2)は本年度に研究したファイバー制御条件によるpmG収束の一般化と比較することで行う. ファイバー制御条件を誤差付きの概念に拡張することで集中位相への応用があるのではないかと期待している. (3)は2年目の課題として研究計画をしていたが, 本年度においても多少進展があった. 本年度は具体例の考察を行い, この問題をオブザーバブル直径という測度距離空間の不変量の問題に帰着させることができたので, その視点からも研究していく. (4)については, 現在, 塩谷隆氏(東北大学)との共同研究として進行中である. n次元楕円面の列が集中位相のコンパクト化の概念であるピラミッドによる収束に対してどのような振る舞いをするか研究する.
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