2017 Fiscal Year Annual Research Report
Heidegger and the sources of normativity
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17J02248
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
山下 智弘 慶應義塾大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | ハイデガー / 実践的推論 / 存在 / 時間 / 形而上学 / 論理学 / 現象学 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. ハイデガーの哲学は存在論である。存在論的な研究は事態の内容を捨象し、ある領域一般の形式をカテゴリーとして提示し、またそうしたカテゴリーが主体によって理解される際の原理を解明するものであるから、ハイデガー哲学における実践的規範性の位置付けを解明するという本研究の目的は、人間の行為の形式を提示し、それが他の事象の形式とどの点で異なる独自の形式であるのかということを明らかにする必要がある。そこで、ハイデガーの『存在と時間』をもとに、実践的推論の形式とその時間的意味を同書の内容をもとに再構成することを試みた。その成果は2017年9月の日本現象学会大会において発表され、また同会に論文として投稿した。論文は査読を経て受理され、『現象学年報』34号に掲載される予定である。 2. カテゴリーは存在の形式であるが、ハイデガーは合理性のカテゴリーを説明するに際して、いくつかの名詞を造語し提示しているだけであり、事態を記述する命題の形式としては提示していない。このことは本研究にとって、三つの観点から困難を含む。第一に、およそあらゆる学的探求は命題を抜きにしては成り立たない。第二に、我々の日常生活にとっても、存在はまずもって「ある」をはじめとする語彙の使用によって理解されていると見なされる。第三に、本研究の主題である実践的規範性の観点からいえば、我々の行為の本質である合理化は命題としてのみ可能である。そこで今年度は、ハイデガーのいう「存在」の多様性を述語論理における存在量化子の多義性として理解しようとする、マクダニエルによる最新の研究を批判的に検討し、レーデルの形而上学的論理学を参考にしつつ、「存在」を述定の形式と解釈することを試みた。これを実存思想協会に論文として提出したものの、準備期間が不足したため内容を十分に整理することができず、査読を通過しなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は二本の論文を投稿し、うち一本が査読を通過した。また、内容としては、研究主題に対してハイデガー哲学において実践的推論を扱うという方針を打ち立て、その際比較検討の基準としてマクダニエルによるハイデガーの存在論的読解やレーデルの形而上学的論理学、マクダウェルの徳倫理学を基礎づける行為論など、ハイデガー哲学を位置づけるべき比較対象を見出した。これらの成果は、次年度の研究に大きく資することが予想される。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、「ハイデガー哲学における実践的規範性の源泉」という研究主題のもと、ハイデガーにおける実践推論の構造とその時間的解釈を目指した。次年度は、次の課題を遂行する。 1. 実践的推論の面からのハイデガーと徳倫理学との比較検討。研究の過程で、ハイデガーにおける実践的推論の描像と徳倫理学、とくにマクダウェルにおけるそれの間に親和性が見られることに気付いた。そこで、ハイデガーにおける実践的推論の構造を明らかにすることによって、マクダウェルのいう「有徳な人」と「徳のない人」それぞれの実践的推論の構造との共通点と差異を明らかにする。とくに、マクダウェルの描像の問題点をハイデガー哲学の観点から補強することができるかどうか検討する。 2. 形而上学的論理学の観点からみたハイデガーの時間論。現象学会での発表の際に、質問者からの理解を得ることが困難であったのが、ハイデガーの時間論についての本研究の立場からの解釈、とくに時間の有限性についてのものであった。来年度は、その反省を踏まえ、時間の有限性についての本研究の解釈を補強する。その際、その解釈は次の二点で独自なものであることを目指す。第一に、ハイデガーにおける存在の意味としての時間がいかなる地位を持つものであるのか、それは命題においていかなる位置を占めるものであるのかということを明らかにすること。第二に、本研究の主題である実践的推論の構造と密接に結びついたものとして時間の有限性を明らかにすること。
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