2017 Fiscal Year Annual Research Report
An Anthropological Study of Waqf in Contemporary Egypt
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17J02475
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
竹村 和朗 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 制定法 / イスラーム法 / 司法 / 憲法 / 公的文書 / 寄進 / 中東人類学 / エジプト |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代エジプトのイスラーム的寄進制度「ワクフ」(個人が私有財産の所有権の移転を「停止waqf」し、その財産から生じる使用利益を指定された受益者に与える制度)を、法制度と具体的な実践の両面から明らかにすることを目指した人類学的研究である。 研究第1年度である2017年度には、現代エジプトのワクフに関する全体的状況をつかむため、また、十数世紀の長い歴史を持つイスラーム的制度が「現代エジプト」という特定の時代と地域において規定・組織される基盤を明らかにするため、ワクフに関連する「制定法」に注目し、その歴史的展開の整理と社会的・政治的論点を探った。エジプトでは19世紀後半以降に近代的な司法体制が導入され、ワクフのようなイスラーム的制度も近代制定法により再編されたことが指摘されているからである。 本年度は、ワクフに関する初の制定法である1946年法律第48号、家族ワクフ(設定者の家族や子孫を受益者に指定したワクフ)の廃止を定めた1952年法律第180号、慈善ワクフ(不特定の貧者や困窮者を受益者としたワクフ)の公的管理体制を定めた諸法令、ワクフを取り上げた近年の憲法改正論議、ワクフ法に関わる最高憲法裁判所の違憲判決など、広汎な法的資料を収集・分析した。特に1946年法律第48号が従来のイスラーム法学にない「期間の定め」や「ワクフの終了」、「終了したワクフの分配」などの新規定を盛り込み、その後の制度変容と混乱を準備したことが明らかになった。これらの成果は口頭発表や分担執筆などで一部公表した。 また、第3年度に予定されるワクフ実践のフィールドワークの予備調査として、2017年8月と2018年1月~2月に二度エジプトを訪問した。その際、ワクフ関係の行政官庁を訪れ、家族ワクフの公的文書に関する閲覧許可の申請を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画の通り、現代エジプトのワクフの法に関する資料収集と読解・分析を進めることができた。 2017年5月には学会発表「ワクフは所有権か:古典学説と現代エジプト法制の比較検討から」を行い、エジプト2012年憲法起草時のワクフ規定論議を取り上げた。その後のワクフ法の分析を通じて、この背景に、家族ワクフの分配や慈善ワクフの行政管理、法のイスラーム化をめぐる社会的関心があることが見えてきた。第2年度にはこの議論をまとめ投稿論文化を目指す。2012年憲法を改正した2014年憲法におけるワクフ規定については、2018年3月の分担執筆「第2章 憲法:2014年憲法の制定過程と条文内容」でも触れた。 ワクフ法の分析に関連して、家族ワクフの廃止を定めた1952年法律第180号の第3条に対する最高憲法裁判所の違憲判決の分析から、ワクフの分配をめぐる家族間の争いや法律条文の相互矛盾、それを裁く司法の関与などの論点が見えてきた。そこで、2017年11月の研究会発表「現代エジプトのワクフ法制における「家族」:フサイン・ジャーウィーシュの子孫によるワクフ訴訟に対する違憲判決から」や2018年3月の研究会発表「現代ワクフ研究における司法について:『終了した家族ワクフ』をめぐる家族争議に関するエジプト最高憲法裁判所の判決から」を通じて検討を進め、2018年3月には分担執筆「第2章 家族ワクフをめぐる家族の争い:エジプト最高憲法裁判所の2008年違憲判決が示すこと」を発表した。 ワクフに関連する相続法や家族法については、2017年10月のセミナー発表「現代エジプトにおける結婚の手続き」や2018年3月の研究会発表「趣旨説明とエジプト相続法の概要」、2018年3月の分担執筆「第4章 司法:ムスリム同胞団関連事件に関する破棄院の判決から」を通じて理解・考察を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
第2年度には、研究計画の通り、まずは現代エジプトのワクフ法制度の投稿論文執筆と、家族ワクフの廃止の先鞭を付けた1946年法律第48号の再検討を行う。後者については特に後年に大きな影響を残したワクフ設定における「期間の定め」に関する同法第5条の議会論議を中心に再考を進める。また、このように20世紀半ば以降の制定法により組織された現代エジプトのワクフ体制が、通常ワクフの訳語に充てられる「寄進」の語に相当するものなのか、もし「寄進」でなければどのような概念・理解が妥当なのか、文化人類学における贈与論を念頭に考察する。その他、第3年度に実施予定のワクフ実践のフィールドワークに関する予備調査、ワクフ文書の閲覧に関する行政官庁における資料調査、英語による論文執筆や国際発表などを含めて、幅広く研究を進めていく予定である。
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Research Products
(9 results)