2017 Fiscal Year Annual Research Report
メディアがもたらした近代教育―新史料「御用書林 村上勘兵衛家文書」に基づいて―
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17J02573
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
樋口 摩彌 京都大学, 人文科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 京都 / 近代 / メディア / 新聞発行 / 行政文書 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、御用書林村上勘兵衛の情報発信の実態と教育の関連を解明するものである。初年度は、①本研究の主軸となる村上勘兵衛家文書の実態の把握②村上文書内から重要文書類の選択および解読と分析③村上文書に関わる周辺の文書の発掘(所蔵場所:歴彩館および国立公文書館)④明治初年の新聞記事の確認(所蔵場所:東京大学明治文庫および国会図書館)を遂行した。加えて、同志社大学社会学部書庫から、幕末から戦前期の未整理の新聞資料群が発見された。その新聞資料群には村上勘兵衛が発行した新聞紙も含まれていた。よって⑤同志社大学社会学部新聞コレクションの整理と公開作業、も追加し研究を進めた。 ①の研究行程として本研究にて研究対象となる幕末から明治初年の史料の選別を行った。結果、公文書およびその写し・日記・書簡・書き付け類に分類した。虫損やカビが著しい史料もあり、研究資料として使用可能な物を選別した。その中から②の研究行程として、本研究において重要となる情報発信と教育に関する史料を選別した。とりわけ新聞発行・印刷においてまとまった史料の残存が確認できた。それらの解読・分析を行った。また③として、村上文書を客観的に位置づけるために周辺文書も発掘を行った。正確性を高めるために可能な限り史料を一紙ずつ実見し、網羅的に調査した。結果、歴彩館には村上勘兵衛に関する資料が複数枚確認できた。国立公文書館には数枚あったが、新聞・教育に関するものは確認できなかった。さらに④として東京大学明治文庫や歴彩館に所蔵する明治初期の京都で発行された新聞記事を確認したが、村上勘兵衛に関する記事はほとんど確認できなかった。また⑤として村上が発行に関与した新聞紙で、これまでに確認できていなかった号数の新聞紙が確認された。さらにこの新聞群は400種以上の地方紙で構成されており、貴重かつ特異な史料群である。よって継続して調査・公開作業を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究行程①②は、概ね順調に整理および分析が進んでいる。とりわけ村上文書からは新聞発行に関する行政文書とその写しが確認できた。日本新聞史を概観しても明治初年の新聞発行に関する行政文書の発見は少なく、この発見によって新聞事業が実証的に解明できることが期待できる。またこの文書群から、新聞事業と並列して京都府による『京都府府令書』が印刷および配布されていた点が明らかになった。大衆を対象とした新聞発行と行政の広報が、同一機関から行われていた事象は重要である。教育関係の史料は、小学校教育、中学校教育、教科書発行などが確認できたか、いずれも断片的で通覧できるものはない。継続して調査を進める。 研究③は歴彩館で所蔵が確認できた村上勘兵衛に関する史料は、製紙業や地券の印刷、書籍類の発行、架橋事業、村上勘兵衛が印刷した教科書のものであった。しかし断片的にしか残存していない。国立公文書館の残存状況はさらに少なく、新聞発行や教育に関する史料は確認できなかった。すなわち村上文書の内容を他の公文書から裏付けるのは困難といえる。 研究④は当該期の京都で発行された新聞を一紙一紙確認した。村上の新聞および書籍販売に関する記事はあるものの、教育事業内容に関するものは報道はなかった。また教育事業の記事の大半は、京都府が主導したと記述される。これらの記事と村上文書と照らし合わせると、教育事業を先導したのは京都府であり、村上は府と民との調整や記録作業などを担っていたと考えられる。 研究⑤は、村上文書との直接の関連はないが史料発掘を重要視する本研究において、村上勘兵衛が発行に関与した新聞が発見されたことは重要である。さらにこれまで未発見であった全国各地の地方紙が含まれるこの史料群は、明治初期の各地の有望家による新聞発行事業の様子がわかる。すなわち本史料群はさまざまな研究分野に貢献することができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、研究課題①として、文書から明らかになった新聞発行事業についてまとめる。すでに新聞事業に関する史料の発掘は終了した。これを土台に、本年度は解読および分析に従事する。村上は独自に進めた新聞発行と並列し、京都府布令書など京都府が直轄した行政文書の発行および頒布を行った。これは当該における情報発信が、半官半民の立場だったことを示している。すなわちメディアと行政が近接することを示している。この研究成果を2018年7月のメディア史研究会にて発表し、論文を投稿する。 研究課題②として、村上の教育事業と同時期に行った様々な事業について研究を進める。村上文書からは村上の教育に関する事業のほか、勧業、製紙、治水など、多岐にわたる事業への関与が明らかになった。これは半官半民の立場であった村上が、大衆への発信とともに教育をはじめとする多岐にわたる近代化事業全般を推進したことを示している。この近代化事業とメディアを利用した近代化への啓蒙は、近代化社会を考える上で重要である。よって本年度は、教育に加えて、近代化に関与する事業全般の村上の行動を調査、解読する。そこからメディアが社会の近代化に果たした功績を分析する。 さらに研究課題③として、同志社大学所蔵の新聞コレクションが、適切に公開され、研究資料として社会に還元できるように公開方法を考察する。そもそも実証研究において、資料へのアクセスのしやすさと保存と公開は重要なテーマである。とりわけ昨今デジタル化によるネット上での公開も著しく進化している。この新聞コレクションの調査結果とデジタル化を見越しての公開方法を、2018年6月の日本マス・コミュニケーション学会にて報告および議論する。
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Research Products
(2 results)