2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
17J02698
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
木村 謙太 北海道大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 正当化 / 科学モデル / 類似性 / モデリング / プラグマティズム |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画調書において平成29年度の目的と設定した、「科学的知識や道徳判断の「正当化(知識や判断が適切なものとなること、あるいは適切なものと見做されるようになること)」に関して、認識論・科学哲学と倫理学という境界を超えて、両領域の「正当化」を共通の仕方で取り扱うことが可能な次元を明確にする」のため、とりわけ正当化の対象の範例とされる科学的知識を焦点とした研究を行った。その際に着目したのは、現代科学において科学的知識が形成されるプロセスにおいて極めて重要な位置を占めている科学モデルであり、そうした観点から以下の成果を上げた。 1. この15年ほどの英米圏の科学哲学領域において盛んに為されてきた「科学モデルが一般に持つ特徴・本質(そもそも科学モデルとは何か)」に関する論争のサーヴェイを通して、この論争を巡る立場が大きく5つに分けられることを示した 2. 以上の論争を解消しうる立場の構築した 3. 科学モデリング、延いては科学的知識一般の「適切さ」「正当性」にとって決定的に重要となる「類似性」概念に関わって、科学哲学や認知科学を中心に近年萌芽的に取り組まれているその定量的取り扱いの可能性と限界を、古今の論者の議論と現代の統計学や認知科学において為されている成果をともに参照しつつ明確化した 4. 3の研究の過程で、現代哲学において類似性概念が殆ど扱われなくなった契機を構成するV.W.O.QuineとN.Goodmanの議論を精査し、それによって両者の議論が問題含みであることを示した 5. 上述の「類似性の定量的取り扱い」に関する論争のサーヴェイを通して、この論争が大きく2つの立場に分けられることを明確にするとともに、現代プラグマティズムの知見を適切に利用することによって、両立場が本質的には対立しあうものではなく相補いあわせうるものであることを明らかにした
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
科学モデルを中心的に扱うことが本研究にとって重要であるという理解・着想を得たことによって、平成29年度の前半ではとりわけ統計モデリングに関する習熟を果たす必要が生じたことで、本格的に研究が為されうる状態になったのは年度の後半となっているおり、また、これまでの成果の発表も平成30年度の前半に持ち越されることになっているため。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の前半において、平成29年度の予定となっていた研究を完成させるとともに、その成果を順次発表する。 後半においては、当初の目的であった「平成29年度予定の研究をふまえることにより、現代認識論における「正当化」研究の成果を、倫理学及び政治哲学領域へと実際に適用していく」を行う。そのためにとりわけ重要となるのが、プラグマティズムと呼ばれる立場の「正しさ」の理解に関する研究である。その理由は、プラグマティズムと呼ばれる立場の「正しさ」に関する理解が、科学と道徳・政治の間の「正当化」に本質的区別を要しない可能性を持つものだからであり、こうした観点ゆえに平成30年度の研究は以下の2要素から構成される。 1. プラグマティズム自体に関して、とりわけ「どのようなバージョンのプラグマティズムならば以上の目的を果たしうる立場を構成できるか」と「そうした立場は整合的か」という二つの問いに答えを与えることを目的とした研究 2. プラグマティズム的な「正当化」の理解が、科学哲学が対象とする科学的言明と倫理学や政治哲学が対象とする道徳的言明(など)の両方の「正当化」にとって妥当な理解でありうることを、実践に即したレベルで示す研究 1に関しては、既に修士論文において、上述の問いに肯定的な答えを与えうるものとしてC.Misakの議論に着目し、部分的に果たしているが、これを補完させるために同様に肯定的答えを与えうるJ.McDowellとR.Brondomの議論を整理し、以上の3議論の精査・修正・相補完を行う。 2に関しては、ます科学的言明に対して、統計モデリングやそこで(しばしば暗に)関わっている類似性判断といった実践が、まさにプラグマティズム的な観点からでなくては理解できないことを平成29年度の成果を用いつつ示し、道徳的言明に対しては、特にC.MisakとJ.McDowellの議論の修正を通して示す。
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