2017 Fiscal Year Annual Research Report
知識人と社会批判―フランクフルト学派と47年グループの知識人像
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17J02762
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
橋本 紘樹 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 建設的な社会批判 / 知識人研究 / 社会批判と制度 / テーオドル・アドルノ / フランクフルト学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代における知識人の公的役割に関しては、近年たびたび議論がなされている。本研究では、そうした議論を踏まえた上で、第二次大戦後の西ドイツで活躍したフランクフルト学派や文学集団47年グループを考察し、思想家や作家による社会批判の意義を明らかにすることを目標としている。 今年度は主に3つの課題に取り組んだ。まず、フランクフルト学派のテーオドル・アドルノが1956年に行ったハインリヒ・ハイネ(ドイツの詩人)についてのラジオ講演を、当時の政治・文化状況を念頭に置いた上で検討した。そして、アドルノが公的な場での文化批評を通じて、いかに当時の社会を建設的に批判しようとしていたかを明らかにした。この成果はその高い学術性が評価され、日本独文学会機関誌『ドイツ文学』156号に掲載された。 2つ目は、近年なされている、知識人の現代的意義に関する研究を調査し、その問題点を指摘した上で、フランクフルト学派を知識人論の文脈で再検討する必要性を明らかにしたことである。これについては、ドイツのケルンで開かれた会議、第4回『Kyoto Tag』にてドイツ語で口頭発表を行った。 3つ目は、アドルノと、彼と同時代の思想家アーノルト・ゲーレンの対談の分析である。社会の「批判理論」を唱えるアドルノと、社会における「制度」の意義を主張するゲーレンが、知識人の役割についていかに考えていたかを検討した。そして同時に、その考察結果は、現代における「社会批判」と「制度」の適切な関係性を考察する足がかりとなった。この成果については、2018年度の第43回「社会思想史学会大会」へ発表申し込みを行なった。 以上3つの取り組みは、知識人論の観点から再検討することで、フランクフルト学派や47年グループの個々の研究史に新たな視座をもたらすだけにとどまらず、現代における知識人の役割を捉えなおすという点で、社会的意義を有するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度前半は、テーオドル・アドルノが行なったハインリヒ・ハイネについてのラジオ講演を分析し、その社会的意義を解明した。その際、図書館等で文献にあたるだけでなく、日本独文学会や日本独文学会京都支部の研究発表会に積極的に参加し、情報収集や意見交換に努めた。このアドルノの講演が行われた時代を基礎にして、本研究の対象であるユルゲン・ハーバーマスらが公共の場で知識人として活躍するようになっていく。そのため、この研究は、当時のアドルノの構想を解明するだけにとどまらず、ハーバーマス研究を進める足がかりとなった。 2017年度後半は、「研究指導の委託」制度を活用し、ドイツのミュンヘン大学で教鞭をとるスフェン・ハヌシェク教授のもと研究を行った(2018年8月まで)。当地では、ミュンヘン大学に限らず、バイエルン州立図書館を利用し、数多くの文献にあたり、知識人研究の最前線に触れることができた。そのおかげで、知識人研究の観点からフランクフルト学派や47年グループの意義を解明する本研究の基盤を作り上げることができた。 また、ベルリンのアドルノ・アーカイヴを訪れ、アドルノと47年グループのメンバーや、同時代の思想家アーノルト・ゲーレンとの往復書簡を閲覧した。当時の政治的状況をめぐる彼らの手紙のやりとりは、本研究にとって非常に有益なものであった。とりわけ、「批判」と「制度」をめぐるアドルノとゲーレンの対談を読み解く上で、彼ら2人の書簡は非常に重要なものであった。当時ラジオやテレビで放送されていた彼らの対談の分析を通じて、社会における知識人の役割について理解を深めることができた。 研究計画を踏まえ、上述した今年度の研究状況を判断すると、おおむね予定通り進捗したと言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度は、考察の対象をユルゲン・ハーバーマス、および47年グループのハンス・マグヌス・エンツェンスベルガーやハインリヒ・ベルに移す。全体に関して、ミュンヘン大学の図書館およびバイエルン州立図書館の豊富な資料群が、研究の基礎である。 具体的には、まず、社会の「批判理論」を提唱するハーバーマスと、知識人による社会批判を批判した思想家ヘルムート・シェルスキーを比較考察する。ハーバーマスはアドルノを引き継ぎ、フランクフルト社会研究所の所長となった人物であり、シェルスキーはゲーレンの思想に大きな影響を受けた。それゆえ、前年度の成果を踏まえて、ハーバーマスとシェルスキーを比較考察し、そこから知識人による公的批判の社会的意義を導出したい。また、ハーバーマスに関しては、「専門知」の意義を主張したミシェル・フーコーの知識人理論との比較考察も行う。ここから、「専門知」を超えた社会批判の役割を抽出したい。 続いて、エンツェンスベルガーの知識人観を、彼が大きな影響を受けたアドルノとの関係を念頭に置き、考察する。その際、ベルリンのアドルノ・アーカイヴで閲覧した彼ら2人の往復書簡は考察の一助となる。ベルに関しては、彼が自らの作品にどのような社会批判的意図を込め、それが当時いかに受容されていたかを明らかにする。ベルについても、当時交流が少なからずあったアドルノとの関係を考慮に入れる。これらの検討を通じて、当時の社会で思想家と作家がどのように交流し、「知識人」としていかなる社会的役割を担っていたのかが明確になるはずである。エンツェンスベルガーとベルに関しては、マールブルクとケルンのアーカイヴで資料収集を行う。 これらの研究を前年度の成果と総合させ、フランクフルト学派と47年グループの考察を通じて、現代の知識人研究が抱える問題を解決するという本研究の課題を実現する予定である。
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Research Products
(2 results)