2018 Fiscal Year Annual Research Report
効果的な単位認定型高大接続プログラムの運営形態に関する日米比較研究
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17J03009
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西川 潤 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 高大接続 / 早期履修制度 / 高大連携 / Advanced Placement / Dual Enrollment |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目は研究枠組および事例分析の両面において進展があった。 前者に関しては、高大接続における単位認定型高大接続プログラムの特質について、いわゆる高大連携の取組や入学者選抜のプロセスと比較した結果、その呼称を「(高等教育)早期履修制度」とすることが適当であると結論付けた。この検討を行った背景には、高大接続という用語が厳密な定義を欠きながら多様な文脈で使用されている現状があった。高大接続を構成する一要素としての「早期履修制度」という位置づけを定めたことで、本研究の方向性をより明確にすることができたと考える。 後者に関しては、日本において米国のAdvanced Placementを直接導入する動きが急進展したことが本研究にも大きな影響を与えた。研究開始前の段階では日本にそのような動きはなく、米国の事例や国内の類似事例の検討から帰納的に望ましい早期履修制度の在り方を探る方式を想定していたが、Adavanced Placementの直接導入は日本における早期履修制度推進の意義、問題点を探る上で極めて有効であると判断し、実際に導入研究会に参加して現場の声も拾いながら研究を進めた。また、実際に導入する上での具体的なプロセスについても、現地の資料をもとに分析を進めた。成果としては、海外大学への進学を希望する高校生にとっては、米国の早期履修制度を経験することが入学選抜上の加点や学習方法への慣れという点において有効であり、日本の高校が導入するメリットは大きいことがわかった。導入のプロセスの煩雑さや費用といった障壁も、国際バカロレアと比べると大幅に低く抑えられているため、実現可能性も十分にある。一方、課題としては英文でのシラバス作成などの教員への負担、学校年度の開始時期の違いによる履修可能授業数の制限、教員研修への参加の困難さなどが挙げられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の大きな成果としては、当初想定していなかった日本におけるAdvanced Placementの本格的導入の動きが出てきたことで、類似の高大連携を考察するだけではわからなかった利点・問題点の双方を見出すことができたことが挙げられる。当該研究会への参加によって見えてきた利点および問題点の双方は、日本の高等学校の実情に即したものであり、日本における効果的な早期履修制度の実施形態の検討に大きな示唆をもたらすものである。研究会の活動は令和元年度以降も継続していくため、さらに具体的な成果が期待できる。以上の点においては、当初計画よりも順調に進展したと判断できる。 もう1つの大きな成果としては、上記研究会への参加を通して単位認定型高大接続プログラムの定義の明確化を図り、「早期履修制度」という概念を確立したことが挙げられる。このことにより、研究のまとめ段階に予定している理論構築に目処がつき、次年度での研究対象の正確な絞り込みも容易になった。この点も、当初計画よりは速いペースで推移している。 一方で、本年度の反省としては、Advanced Placement導入計画への参加に大幅に時間を取られ、当初計画していた米国におけるAdvanced PlacementおよびDual Enrollmentの共存の意義と課題をめぐる議論についての事例分析・検討が不十分に終わっている点である。元々は多様な事例の収集から理論化という流れを想定していたが、当該研究会の発足によりその順序が変わってしまったことは否めない。ただし、文献調査での一定の補いは継続できているため、予定どおりに消化できなかった課題については次年度で埋め合わせを行い、当初の工程に近づけていく予定である。 よって、進捗状況には計画以上に進展した面とやや遅れている面が両方含まれており、トータルでは概ね想定通りの進捗状況であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はAdvanced Placement導入研究会への参加を通し、今まで見落としていた重要な点にも気がつくことができた。1つは、遠隔授業の持つ可能性である。従来の日本の高大連携においては、科目等履修生の形で大学の授業を履修することが可能であったが、高校と大学の地理上の障壁や時間割上の問題から、参加に向けたハードルが極めて高いのが現状であった。もし遠隔授業による早期履修が確立すれば、その障壁を一気に解消できる可能性がある。米国においてもAdvanced Placementの受講希望者が少ない高校や、設置科目が少ない高校などでは遠隔授業が用いられており、今後はそのような事例について調査をしていく必要があると感じている。また、研究会では英語によるシラバス作成が一番の難関であることが明確になり、非ネイティヴ教員が担当する場合、このハードルをいかにしてクリアするかという点が普及に向けた鍵となる。そこで注目されるのが、既にAdvanced Placementを導入した実績のある非北米諸国の事例である。言語の障壁はあるものの、可能な範囲で参照していくことが有益であると考える。 さらに、これまでの研究により、複数の早期履修制度の並立が高校生の多様なニーズに対応を目指した結果であることが抽出されつつあり、本年度は「卓越」と「公正」という米国教育界における重要理念を分析軸として、理論的精緻化を目指す。フィールドとしては、既に訪れたニューヨーク州、ユタ州への再訪に加え、イリノイ州もしくはフロリダ州の実地調査も構想している。 そして、今後最も意識しなくてはならないのは、日本の高校・高校生・大学にとって最大公約数的にメリットを享受できる早期履修制度の仕組みの構築である。具体的には大学間連携と行政機関の協同による広域型のシステムの検討を行っていく。
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Research Products
(2 results)