2018 Fiscal Year Annual Research Report
「税法の憲法化」の内容と方法についての研究―最低生活費非課税原則をめぐる日独比較
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17J03366
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
松本 奈津希 一橋大学, 大学院法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 憲法 / 生存権 / 最低生活保障 / 租税立法 / 憲法適合的解釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、研究実施計画に基づき、ドイツ連邦憲法裁判所および専門裁判所である連邦財政裁判所の判例および学説を素材として、最低生活費非課税の原則の形成過程およびその具体化について明らかにする作業を行った。その結果、大きく分けて以下の二つの知見を得ることができた。 第一に、最低生活費非課税の原則を初めて明示的に承認した1990年決定以前の連邦憲法裁判所の判例において、基本法1条1項の人間の尊厳・基本法20条1項の社会国家原理・基本法3条1項の平等原則というそれぞれの観点や法領域ごとに、最低生活費非課税の原則が形成されてきた過程を明らかにし、それに対応する学説の議論状況の整理を行った。そこでは、傍論ではあるものの、人間の尊厳と社会国家原理の結びつきを明示した終身自由刑判決が判例における最低生活保障の法理の出発点となっており、またこれは自由権そのものを巡る議論であるという、大変興味深い知見を得ることができた。 第二に、連邦財政裁判所によって最低生活費非課税の原則が積極的に具体化されているということを解明した。すなわち連邦財政裁判所は、連邦憲法裁判所の示した基準や定式をもとに事案に即した具体的な最低生活保障を行っているにとどまらず、憲法適合的解釈等を用いて独自の最低生活保障のための定式を生み出したり、あたかも自身の基準のように最低生活費非課税の原則を適用しているのである。さらに憲法適合的解釈の背景にある、法秩序の憲法化というより大きな視点の存在を示唆することができた。 こうして得られた知見を踏まえたうえで、日本法との比較検討を行った結果をまとめて、第二論文(松本奈津希「最低生活保障の法理の形成と具体化(1・2完)──連邦憲法裁判所と連邦財政裁判所の判例を素材として」一橋法学第18巻第1号(2019年3月)・第18巻第2号(2019年7月刊行予定)を執筆することが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度の研究実施計画に基づき、①最低生活保障の法理の形成過程と、②専門裁判所である連邦財政裁判所の判例における当該法理の受容と展開という、二つの視点からの検討を行うことができた。とりわけ、後者における憲法適合的解釈の背後に法秩序の憲法化という議論が存在することを示唆した点は、本課題にとって非常に有意義なものになりうると考えられる。ただし、様々な法領域における最低生活保障の精密な検討を行ったため、また役割分担をより明確にするためにも、あえて専門裁判所の判例として連邦財政裁判所の判例のみを扱ったため、同じく専門裁判所である連邦社会裁判所の判例を取扱うことができなかった。今後の課題である。 また、こうした成果を得るために必要であるドイツでの在外研究を行うことができた。 このようにして獲得した知見に加えて、日独の比較検討を行った成果をまとめて、第二論文(松本奈津希「最低生活保障の法理の形成と具体化(1・2完)──連邦憲法裁判所と連邦財政裁判所の判例を素材として」一橋法学第18巻第1号(2019年3月)・第18巻第2号(2019年7月刊行予定)を執筆することが出来た。 以上のことから、進捗状況はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度(令和1年度)は、平成30年度までに得られた知見を前提として、ドイツの専門裁判所である連邦社会裁判所の判例における最低生活保障の法理の具体化・手法を徹底的に探究する。その際、同じく専門裁判所である連邦財政裁判所や、連邦憲法裁判所の判例法理との異同や、それぞれの役割分担についても焦点を当てる。また同時に、最低生活保障の法理の基礎を形成してきた、連邦憲法裁判所の判例の批判的検討も行う。このような作業を通じて、わが国において生存権の自由権的側面である最低生活費非課税の原則だけでなく、生存権の社会権的側面にとっても有益な視座を獲得するとともに、租税等の法秩序の「憲法化」についての理論を解明し、憲法25条にいう「最低限度の生活」の動態的把握を目指す。 そのための文献として、法秩序の憲法化にかかる基本文献(シュッペルト/ブムケ)や、税法の憲法化に特化した論文(ドレーゲ)に加え、公法における最低生活保障全般について詳細な検討がなされている単著(ライスナー)を中心として扱う。 以上の研究から、連邦社会裁判所による最低生活保障の実体および法秩序の憲法化の影響を明らかにし、その成果を論文として公表する。 こうしたドイツの専門裁判所の判例法理や憲法化理論を本格的に研究するためには、ドイツの学者との積極的交流を図り、議論を交わすことが不可欠である。国内では入手できない資料等もある。そのために申請者は、平成31年度(令和1年度)中にドイツのハイデルベルク大学を再度訪問し、在外研究を行うことを計画している。
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Research Products
(2 results)