2017 Fiscal Year Annual Research Report
公教育におけるインクルージョン実践の多層性―障害児の学級参画を起点として
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17J03526
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐藤 貴宣 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 視覚障害 / インクルーシブ教育 / 学級経営 / 特別支援 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度から研究計画に記した調査を本格的に始動させている。 公立小学校におけるフィールドワークとしては、1年を通して中豊島小学校を週に一度、佐井寺小学校、狭山市立東小学校を月に一度のペースで訪問し、参与観察を実施してきた。またこれらの小学校に全盲の子弟を通わせている保護者、ならびに当該児童に巡回指導を提供している視覚支援学校の担当者へのインタビューを行ってきた。 さらに、1980年代に普通学校で全盲児を指導した経験をもつ3名の元教員へのライフヒストリー・インタビューも実施することができた。これらの作業と並行して、公立学校での視覚障害児の学習保障を求めて活動する市民グループの例会にも定期的に参加し、ヒアリング調査などを実施してきた。加えて、障害児教育のアドバイザーとして豊中市立第18中学校にコミットする機会を得たので、校長の了承に基づき、本研究計画に資するよう、定期的に訪問し、全盲児の在籍する学級での授業観察ならびに当該生徒に関わる教師たちへのインタビューを実施してきた。 これらの調査については、「関西インクルーシブ教育研究会」および受け入れ研究室での報告を通じてアウトプットへと結実している。以上の調査によって得られた各種データに基づく学会報告を第68回関西社会学会や第90回日本社会学会大会、第69回日本教育社会学会大会において行ってきた。加えて、これらの報告は論文として『龍谷教職ジャーナル』や『フォーラム現代社会学』、『金城学院大学論集』に投稿してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
公立小学校におけるフィールドワークとしては、1年を通して豊中市立中豊島小学校を週に一度のペースで訪問し参与観察を行ってきた。加えて、大阪府下のいくつかの小学校を断続的に訪問しヒアリング調査などを行ってきた。とくに、全盲児の在籍するクラスを担任する教師ならびに当該の児童に加配教員としてかかわってきた教師たちについては、随時聞き取り調査を行い、そのトランスクリプトの作成を進めてきた。なお、上記調査から得られた知見については以下のアウトプットへと結実させてきた。 ■学会発表 佐藤貴宣,2017,「障害児教育の社会学的分析におけるディスアビリティ概念の位置と機能」[2017年度第68回大会シンポジウム]第68回関西社会学会, 2017念5月28日(於神戸学院大学・ポートアイランドキャンパス):原田琢也・濱元伸彦・髙橋眞琴・佐藤貴宣,2017,「ロンドン・ニューアム区のインクルーシブ教育実践に関する教育―個のニーズへの対応と集団への包摂」第69回日本教育社会学会大会, 2017念10月21日(於一橋大学):佐藤貴宣,2017,「生活指導と支援ネットワークの自己産出―「お礼」と「謝罪」をめぐる社会化実践から」第90回日本社会学会大会, 2017年11月4日(於東京大学) ■学会誌等への発表 佐藤貴宣,201803,「小学校における支援の組織化と教師のワーク―全盲児童の学級参画を中心に」『龍谷教職ジャーナル』5: 1-17.:佐藤貴宣,201806,「インクルーシヴ教育体制に関する社会学的探究―全盲児の学級参画とメンバーシップの配分実践」『フォーラム現代社会学』第17号 掲載決定(査読有).:原田琢也・中村好孝・高橋眞琴・佐藤貴宣・堀家由妃代,20180330,「インクルーシブ教育の到達点―関西圏の実践から」『金城学院大学論集 社会科学編』第14巻第2号 1-25.
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Strategy for Future Research Activity |
昨年に引き続き、小学校現場でのフィールドワークを継続し、それによって得られたデータを中心とする研究活動を行っていく。昨年度は教師たちの経験や認識に立脚した分析や考察を中心的に進めてきたが、今年度特に重点的に取り組むことになるのは、障害児と健常児との間に生起する日常的な相互作用・コミュニケーションに照準した分析である。たとえば、休み時間や給食時間など、個人の自由度が向上したり自発的な共同が求められる場面で、障害児と周囲の子どもたちとは、どのような相互行為を演じているのか。子ども間で展開するやり取りについては、こうした主題を設定できる。 昨年、研究補助者の協力のもと、小学校で収録したビデオデータのコーディングに着手した。その作業は概ね完了しているので、まずはこのデータセットを用いた分析を行う。 加えて、クラスルームの日常において遂行される障害児への援助実践の過程や特徴を詳細かつ厳密に解明することも今年度の課題となる。障害児を取り巻く教師や支援スタッフは日々のコミュニケーションを通じて、他のアクターとの間にネットワークを形成しつつ障害児支援を成り立たせている。この仕組みとそれを構築していく過程を把握することが主たるテーマとなる。その際、障害児に関わるアクターたちの間に孕まれているはずの対立や葛藤、緊張状態に目を向けることがとりわけ重要となる。 それゆえ、ここで実際に行う作業とは、学校での障害児支援に関わる人びとの日常的知識や実践的推論を記述することであり、それをもって多層的なネットワークを形成していくアクター間の日常的な相互作用過程の中で/を通じて、具体的にいかなるコンフリクトが生起し、どのように解決されているのか、そのプロセスを明らかにすることが目指される。こうした研究活動を通じて、障害児にとってもっとも望ましい支援の仕組と、それを実現するネットワークのありかたを解明する。
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