2017 Fiscal Year Annual Research Report
The Changes of Character Usage in Japanese Native Words in Kindai
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17J03579
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
高橋 雄太 明治大学, 国際日本学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 近代 / 和語の表記 / 計量的分析 / 語の意味 / コーパス / 通時的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近代における和語の表記の実態と変遷について、①複数表記語の意味と表記の対応関係の変化の実態とその要因の解明、②仮名表記語の特性と変化の要因の解明、③昭和前期の調査のためのコーパスの構築、の3点に重点を置いて調査・作業を進めた。 ①では、特に近代になって新たに表記が対応する語に注目し、「カタイ」と「ハヤイ」を取り上げ、語の意味分析を行った。意味分析によって得られた意味分類に従って、近代雑誌コーパスから得られる用例を分類し、意味と表記の対応関係を分析した。その結果、新たに表記が対応するようになる背景には語の意味変化があり、新たに勢力を増した意味と親和性の高い表記が、新たにその語に頻用されることがわかった。また、意味変化の起こる要因には、周辺語の消長、近代化に伴う社会の変化があることが明らかになった。 ②では、和語の高頻度を対象に、コーパスの用例から仮名表記率を算出し、仮名で表記されやすい語の特徴を調査した。その結果、近代においては和語の自立語は基本的に漢字で表記することと、品詞別に観察すると、文の主要な情報源となる動詞や名詞は仮名表記率が低く、他の品詞や文を補う役割を担う接続詞や副詞は仮名表記率が高く、双方の性質を持つ形容詞や形状詞はその中間的位置づけにあることがわかった。 ③では、既存の近代語のコーパスでは大正末期までしか調査できず、言語の変化が完了せず昭和期の調査が望まれ、1946年の「当用漢字表」制定以前の用字法を調査する必要性があったため、昭和期の総合雑誌『キング』を資料として、独自にコーパスを構築した。構築対象は1933年の2・6月号、1941年の2・6・10月号で、全文を電子化した後、国立国語研究所の短単位規程に従って形態素解析を行った。各年次約65万字、約150記事、約40万語、著者100人強と規模が大きく、また著者の偏りのないコーパスの構築が達成された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、個別の語の詳細な分析を行い、言語の変化の要因と背景を詳細に明らかにすることに努め、近代において、何故用字法の変化が起こるのか、現代語の用字法に向かうにあたってどのような原則・理論が成り立つのか、その理論の構築を進めた。また、研究論文1本と研究発表3本と成果発表重ね、研究の方向性を定め視野を広げることも達成できた。個別語の研究・各論が蓄積してきたことで、次年度における大局的分析にスムーズに移行できる点において、順調に進展しているといえる。 また、本研究の軸の一つであるコーパスの構築についても、規模の大きさや資料独特の難しさゆえに12月末完成を目標としていたところが2月まで延長してしまったものの、年次25万語以上の想定で構築したところ40万語強の大きな規模となり、調査対象語の用例数もより余裕をもって確保する事がかなった。年度内に実用的なレベルに仕上げ、少ないながらデータの収集も達成できた点においても、順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、大きく2つのテーマでの研究を予定している。 前半期には、昨年度に蓄積した個別語の分析をまとめあげ、近代において和語の用字法が変化する背景には語の意味変化が伴っていることを、最も基本語が多く用字法の変化の大きい動詞を対象として、明治~昭和期のコーパスを用いて実証し、また変化の要因と背景を類型化する内容の研究を進める。これについて、7月末までに論文にまとめあげ、『国語語彙史の研究』に投稿することを目標とする。 後半期には、明治~昭和前期のコーパスを用いて、和語の用字法を通時的に、統計的に分析し、近代において和語の用字法がどのような変遷を遂げたのかを明らかにする。また、その終局点にあたる1946年の「当用漢字表」における用字法との比較研究を行い、「当用漢字表」の設計の背景に、それ以前の近代における用字法の変化があるという仮説を基に、調査を進める。これについて、年内に国立国語研究所の通時コーパスプロジェクト内で発表し、論文にまとめ、『日本語の研究』に投稿する。 その他、昭和期のコーパスの構築とその活用をテーマに、9月の「言語資源ワークショップ2018」で発表する。
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