2018 Fiscal Year Annual Research Report
A Study of the Musical References in Marcel Proust's text
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17J03774
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
関野 さとみ 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | プルースト / フランス文学 / 小説 / 音楽 / 楽しみと日々 / 失われた時を求めて / 草稿研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
マルセル・プルーストのテクストに見出される音楽レフェランス(音楽に関する固有名を中心とした語句への言及)の意味と機能の変遷を明らかにするために、本年度は、初期のテクストである『楽しみと日々』(1896)を主な研究対象とした昨年度の成果をふまえながら、それ以降のプルーストのテクストの精読と考察に努めた。 本年度前半は、初期作品における音楽レフェランスの使用について考察した査読論文「プルーストの『楽しみと日々』における音楽のレフェランス」を学会誌『フランス語フランス文学研究』113 巻に発表したほか、昨年に引き続きパリ市内の研究機関で資料調査を行い、国内では確認が困難なプルーストの草稿類や初版の印刷稿などを精査した。さらに、テクストで使用されている実在の音楽レフェランスに関する音楽資料や、プルーストが足を運んだ第三共和政期の音楽サロンについての記事や記録の収集を行った。また、プルーストの音楽記述に影響を与えた作曲家ドビュッシーの没後100年を記念する国際シンポジウム(2018年9月25日~26日:メッス)に参加し、本研究を前進させる知見を得た。 本年度後半は前述の在外研究中に収集した資料と、プルーストの最初の小説執筆の試みである『ジャン・サントゥイユ』以降のテクストを精読し、そこで使用されている音楽レフェランスについて、草稿資料やタイプ原稿なども適宜確認しながら調査した。膨大な資料の検討に時間を要したため年度末に予定していた学会発表は次年度に繰り越すことにしたが、考察の結果、初期の『楽しみと日々』から後年の『失われた時を求めて』へと至るまでの、作品の外部に実在する音楽レフェランス群の作品への取り込み方の変化を明らかにし、同時代の音楽の聴取体験やプルースト自身の音楽的嗜好が小説の音楽記述にどのような意味を持っていたのか、一定の見解を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
プルーストの初期テクストにおける音楽レフェランスの機能に注目した昨年度の研究成果を、学会誌の査読論文を通じて公表した。また、在外研究中に行った資料調査では、資料数の膨大さから予定していた調査を全て終わらせるには至らなかったものの、複製が許されていない資料も含め、研究を前進させるために必要な貴重資料を数多く入手・確認することができた。これらの資料やテクストの精読から、後年の『失われた時を求めて』における音楽記述の着想源の1つとして、パリのサロンや演奏会以外に、プルーストがバカンスで滞在していたカブールをはじめとする海辺のリゾート地での音楽受容の重要性も浮かび上がってきた。次年度の研究活動に向けての新たな課題も判明し、着実に研究を進展させることができたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年5月25日に成城大学で開催される日本フランス語フランス文学会(2019年度春季大会)で口頭発表を行う。これまでの研究成果を踏まえたうえで、『失われた時を求めて』のテクストの重点的な考察に入る。プルーストは『失われた時を求めて』の執筆にあたってモデルとした作曲家やいくつかの楽曲名を明らかにしているが、草稿資料と印刷稿を精査すると、そうした実在の音楽レフェランスとテクストの関係は初期作品以上に複雑化している。草稿資料やタイプ原稿、校正刷りでの加筆などのさらなる調査が必要になることから、9月以降にフランスで長期の在外研究を行い、国立近代草稿研究所(I.T.E.M.)などの研究機関で昨年度までの未確認分を含めた資料調査を遂行したい。
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