2018 Fiscal Year Annual Research Report
20世紀初頭ロシアの「革新的作曲家」の「革新性」再考:先行者の同定と影響の考察
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17J03820
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
山本 明尚 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 音楽学 / 音楽史 / ロシア音楽 / ロシア・アヴァンギャルド / ロシア / ソ連 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ロシアに数度渡航し、図書館や資料館での資料収集や現地の研究者との情報交換を行い、それらの資料・情報を元に既往研究を批判的に読み込むとともに、得た成果をもとに国内外で研究発表を行いながら、博士論文の執筆を進めた。 本年度の研究上の進展のなかで、特に大きなものと言えるのは、本研究の主眼である「革新的音楽」の敵対者としてこれまで認められてきた「プロレタリア音楽家」関連の諸組織の作曲家の音楽作品の中に、先行者との影響関係に基づいて解釈するならば、「革新的」な要素が見いだせるという仮説とその立証の試みである。この仮説に基づくと、本研究の「革新者」の枠を大きく広げて歴史解釈を行う必要こそあるものの、従来の研究でしばしば前提とされてきた「革新者」VS「プロレタリア音楽家」という大きな二項対立構造が、音楽創作の側面から否定されることで、本研究の成果はロシア・ソヴィエトの音楽史記述に対して大きな意義を持つことになる。 国内外の研究発表でも、この仮説を資料的に基礎づけ、また立証するための試みを提示した。まず、5月に行った国外での研究発表では、「革新的作曲家」が属したとされる音楽団体と「プロレタリア音楽家」による音楽団体の機関誌にそれぞれ掲載されたマニフェスト的記述を比較し、後者の記述が徐々にイデオロギーを全面に出すように変化していったことに同調し、前者の記述も政治性を帯びていったことを明らかにした。10月に行った研究発表では、もっぱら「プロレタリア音楽家連盟」という団体に所属していた作曲家に焦点を当て、彼らが作曲し、これまでの研究でほとんど着目されてこなかった「扇動教化音楽」について、資料面からの検討と楽曲分析を行い、それまでのロシア芸術音楽で顧みられなかった民俗音楽を使用している点で革新的であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究自体は、当初の計画よりも順調に進展している。特に、資料収集・研究年代の言説の精査、楽曲分析といった、本研究の中心となる作業を経て、これまでの歴史研究においてほとんど全く注目されていなかった「プロレタリア音楽家」の作品の重要性を再検討することができ、それらを創作した作曲家らを、ある意味での「革新者」として、歴史上に意義付ける基礎付けができたことが特筆すべき成果だと言えよう。また、「革新的音楽家」の一派による歴史記述を参照し、彼らの歴史意識を明らかにする作業や、従来「ロシア・アヴァンギャルド」の枠の中、革新的な創作の業績しか顧みられてこなかった作曲家の新たな一面に光を当てる楽曲分析作業については、現在進行途中であるが、一定の成果が見込まれる。 しかしながら現状、このような作業を経て、当初検討していた「革新者」の枠が拡大することとなった。例えば、ヴァシーリエフ=ブグラーイやコルチマリョーフといった作曲家は、従来芸術音楽で扱われていなかった種のフォークロアを楽曲の特徴に取り入れるという「革新」を行ったことが判明している。そのことを踏まえ、2019年度には、当初予定していなかった大規模かつ長期的な現地滞在による資料調査を行い、言説と楽曲の分析に取り組む予定である。したがって、研究は順調に進捗している一方で、当該期の音楽・作曲家の歴史的意義を明らかにするために行うべき作業も増加していっているということになる。 以上のような理由から、「(2)おおむね順調に進展している」を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」欄に記したとおり、2019年度にはロシアに長期間滞在し、資料収集や資料・楽曲の分析を行っていく予定である。このような長期滞在を行うことで、窓口での申請から資料の受け取りまでに時間がかかる都合、これまでにあまり大量の資料を参照することができない資料館(ロシア国立芸術文学文書館、グリンカ博物館)や、普段拠点としているモスクワから地理的に離れた文書館(ロシア国立アーカイヴやペテルブルクの諸アーカイヴ)に所蔵されている資料を長いスパンで調査することができる。また、そのような文書館に所蔵されている資料には、解読に時間を要する自筆資料や、膨大な量の議事録が含まれるが、そうした資料に根気よくあたることができることも、今後予定している長期滞在の利点である。また、ヨーロッパ・ロシア各地の音楽院や大学で頻繁に開催されているカンファレンスに出席したり、そこで発表したりすることや、現地の第一線の研究者と意見交換を行いながら研究を進めることができる点も、大きな利点であろう。 特に、分析手法に関しては、今現在私が用いている手法「トピック理論」がロシアでどのように受容されているのか、ロシア音楽における使用するパラメータの一定的な基準が存在するのか、あるいは私が一からそれを設定する必要があるのかが現状不明瞭なため、その点でも情報収集を心がけ、自らの研究に活かす予定である。 以上のような研究活動を行い、得た成果を踏まえ、引き続き博士論文の執筆を進める予定である。
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Research Products
(4 results)