2017 Fiscal Year Annual Research Report
Formation and development of theoretical computer science in Europe after the Second World War
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17J04234
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
河西 棟馬 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | コンラート・ツーゼ / アラン・チューリング / 計算機科学 / 科学史 / コンピューティング史 |
Outline of Annual Research Achievements |
29年度においてはまず6月の日本科学史学会年にて「1950-60年代ヨーロッパにおける『数値解析』」という題で数値解析史について研究報告を行い,数値解析という数学の分野の研究者が,最初期の電子計算機を中心として形成されつつあった(後に計算機科学と呼ばれる)分野横断的研究共同体の形成において,中心的な役割を果たしていたことを示した.またこの発表においては,この研究共同体が50-60年代において徐々に規模を増すにつれ,この研究共同体における研究の中心が数値解析から「計算そのもの」や「プログラミング言語」といった対象に移行していったことも示した.この視点は科学史においても技術史においてもほぼ顧みられてこなかった視点であり,一定の重要性があるものと思われる. この研究を引続く形で行ったのが,アラン・チューリングの歴史的位置づけを巡る研究である.ここでは後に計算機科学と呼ばれることになる研究共同体において,チューリングという人物とその研究がどう評価されてきたのかを検討し,それが計算機科学という分野の形成にどのような役割を果たしたかを示した.東京工業大学での研究会においてその成果を一部報告した. 一方ヨーロッパの計算機科学形成史においてはコンラート・ツーゼの存在も極めて重要であるが,一次資料に基づくツーゼ研究は(本国ドイツを含めても)未だ不十分な状況にあるため,9月にミュンヘンにあるドイツ博物館アーカイブを訪問し,重要性の高い一次資料を多数見つけ出すことができた.その一部について検討し2018年2月に名古屋大学にて「コンラート・ツーゼの転身(1936-37)」という題で報告を行った.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
29年度においては,研究計画の大幅な変更はありはしたものの,研究目標と照らし合わせればほぼ順調に研究が進展したものと思われる.当初の予定通り29年度9月にドイツ・スイスを訪問し重要度の高い研究資料を多数発見することができたため,研究資料の確保という点では予想以上の進展がみられた.一方,当初計画していたプログラミング言語ALGOLの形成過程検討を進める内に数値解析の歴史や計算機登場以前の計算技術史の重要性が明らかになったために,当初の計画を変更し,研究の焦点を60年代以降の形式言語理論/コンパイラ研究やプログラミング言語研究から,50年代以前における数値解析研究と数値計算の実践へと移すことになった.しかし当初の研究目的である「第二次大戦後欧州における理論計算機科学の形成発展の歴史を明らかにする」と照らして,数値解析研究史の重要性はプログラミング言語に勝るとも劣らないものであり,計画の変更を鑑みても概ね順調に研究が進展したと考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の方針としては, 29年度に収集した資料に基づき,ヨーロッパにおける計算機科学研究の出発点の一つであるコンラート・ツーゼの戦時中の研究を整理するとともに,彼の仕事を科学史的に検討し直すことを第一の目標とする.ドイツ語圏においてツーゼはしばしば「コンピュータの父」として言及され,半ば英雄扱いを受けているが,彼の業績を科学史として再検討する作業は極めて不十分にしか行われてきていない.そこで,今後はまずはヨーロッパにおける計算機科学の基礎を築いたとされるツーゼの仕事の再検討を主な課題として研究を進める. 並行して,クロード・シャノンの1930年代後半における業績についても調査する.というのは,ツーゼとの比較対照において重要であることがわかったためである.ツーゼとシャノンは独立ではあるがどちらも同時期(1937年)に電気回路構成のための理論に記号論理学を応用するという着想を得,それが(ドイツ語圏においても英米においても)後のデジタル計算機の基礎理論となった.しかし両者が得た着想は後世からみると同じものに見えるものの,その研究の動機や文脈は全く別であるため,両者の比較によってヨーロッパにおける計算機科学研究の独自性について示唆を得ることを目指す. また,理論計算機科学の産出母体となった学問分野には大きく分けて数学(特に数値解析と記号論理学)および電気工学があるが,数値解析は物理学的な問題との結びつきが非常に強く,また計算機科学分野の創設者の中には物理学者として教育を受けたものも数多い.数値解析は1940-50年代に爆発的な進歩を遂げたが,そうした進歩は常に応用物理学との関係において起こったものであった.そこでまずは1930-40年代ドイツ語圏ヨーロッパにおける数値解析研究史について調査して研究ノート等にまとめ,ヨーロッパ計算機科学の創始者たちの問題関心を明らかにしていくことを目指す.
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Research Products
(2 results)