2017 Fiscal Year Annual Research Report
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17J04435
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
濱川 昌之 九州大学, システム生命科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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Keywords | 認知科学 / 嗅覚認知 / 匂い提示装置 / 脳機能計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに報告者が行った嗅覚心理実験により、匂い分子の複雑度が混合臭認知に影響することが示唆された。そこで、本研究課題では匂いの分子構造に応じた混合臭認知の神経基盤を調べる。 嗅覚に関連した脳活動を調べるためには、専用の匂い提示装置が必要となる。報告者は、以前に作製した手動で匂い提示のON/OFFを行う旧型の提示装置に、電磁弁を組み込むことで匂い提示をコンピュータ(MATLAB)で制御する装置を組み上げた。視覚や聴覚に比べて、嗅覚では匂い物質が空気中に拡散していくため刺激提示の制御が難しい。本課題により制作した装置では、匂いの流量(L/min)を指定し、匂い提示のON/OFFをコンピュータにより制御するため、定量的な匂い提示が可能となると期待できる。 作製した匂い提示装置が、実際に実験で使用可能かを調べるために、脳の電気生理学的な反応である事象関連電位(ERP)を指標として確認実験を行った。ERPのうち、視覚刺激によって誘発される視覚関連電位を対象とした。視覚関連電位は、過去に報告された多くの研究例によって実験デザインや解析手法が確立されている。さらに嗅覚刺激が視覚関連電位に影響を及ぼすことも示されていた。自作した提示装置で快臭・不快臭と匂いを含まない空気を提示し、その際に計測される視覚関連電位に違いが見られるかを調べた(N=29人)。データ解析の結果、予備的ではあるが自作した提示装置により正常な匂い提示が可能であることがわかった。 また、混合臭認知を調べるためには、構成成分の単一匂い分子の知覚特性についても調べる必要がある。そこで、単一匂い物質の匂いに関して、快不快、好き嫌い、匂い知覚の多様性、強度などの知覚を調べるために、36の匂い物質を用いて嗅覚心理実験を行った(N=12人)。この実験により、36の匂い物質に関する匂い知覚のライブラリを作製することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度の研究計画として、コンピュータ制御が可能な匂い提示装置の作製ならびに脳活動等の生理指標の計測による提示装置の機能評価を計画していた。現在までに、電磁弁の開閉をコンピュータによるプログラミング制御が可能な装置の製作が完了している。このことから、前者の計画に関しては達成したといえる。自作した装置の機能評価に関しては、視覚関連電位を指標とした確認実験が完了しており、予備的な結果ではあるが正常に匂い提示が行われていることを示す結果が得られている。しかし、未だ予備的な結果であり、加えて提示装置もいくつかの改良点(下記の「今後の研究の推進方策」参照)が残っていることから、達成度はおおむね進展と判断した。 尚、36の単一匂い物質を用いた嗅覚心理実験の結果については研究成果を取りまとめ、論文として国際科学雑誌へ投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度に作製した匂い提示装置の改良を行う。既存の装置では、電磁弁を収納する筐体が大きく、電磁弁-被験者間のチューブが5~10mとなっていたため電磁弁の開閉から匂い提示までに5~10秒ほどのタイムラグがある。加えて交流100V起動の電磁弁を使用しているため、電磁弁の動作による電磁ノイズが事象関連電位の計測に影響を及ぼしていた。これらの問題を解消するために、より小型かつ乾電池などの小規模電流で動作可能な電磁弁を選定しなおし、小型の筐体に収納した電磁弁boxを作製する。小型化した電磁弁を被験者の鼻の直下に配置することで、匂い提示を1秒未満の誤差で制御できる提示装置を完成させる。 提示装置の改良が完了したら、その装置を用いてERP計測を行い、装置の機能評価を行う。当該年度では、視覚刺激由来の視覚関連電位を計測したが、次は嗅覚刺激由来のERP(嗅覚関連電位、OERP)を対象とする。OERP計測を行った先行研究の実験条件を踏襲して匂い提示を行い、先行研究と同様に嗅覚関連誘発電位(OERP)の計測が可能であるかを確かめる。 OERP計測による提示装置の機能評価が完了したら、混合臭認知を調べるための実験を行う。先行研究により、快臭と不快臭とでOERPの電位成分の振幅や潜時が異なることがわかっている。この知見を利用し、混ぜ合わせることで快・不快が変化する組み合わせの混合臭や変化しない組み合わせの混合臭でOERPを計測する(例:快臭A + 快臭B → 不快な匂い、等)。各混合臭におけるOERPを比較・解析することで、混合臭認知における脳の時間的な活動動態を調べる。
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Research Products
(2 results)