2018 Fiscal Year Annual Research Report
リポソームのがん組織集積を促進する生体内分子応答性NO放出剤修飾脂質の開発
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17J04646
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
芳川 拓真 九州大学, 工学府, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | EPR効果 / ナノメディシン / リポソーム / 一酸化窒素 / 血管拡張 / 薬物送達 |
Outline of Annual Research Achievements |
小分子型の抗がん剤が、がん組織のみならず正常組織に広く分布する一方で、粒子径が100 nm程度であるリポソームを始めとするナノメディシンは、がん組織に集積することが知られている。これは、がん新生血管の透過性の亢進と、組織に漏出した物質を回収するリンパ管が未発達である事に基づく、Enhanced Permeability and Retention (EPR) 効果によるものである。一方でEPR効果による集積が限定的であること、がん患者の臓器で起こるEPR効果に個人差があることが新たな問題になっている。そこで我々はこのEPR効果を促進するため、がん組織の血流量を増加させることを考え、血管拡張剤の一つである一酸化窒素 (NO) に注目している。このNOをがん組織に送達させ機能させるため、NO放出剤をリポソームに内包もしくはその膜に担持させた新たなナノメディシンの開発を行っている。また、ナノメディシン同様に集積の向上が望まれている、タンパク質医薬薬に注目し、NOを修飾する技術の創生を行なっている。 平成30年度は、可逆的付加開裂連鎖移動重合を用いた、新たなNO放出剤担持型ポリマーの開発を行なった。本ポリマーについては、保存安定性が高くがん細胞特異的な放出が期待できる材料となった。またこれまで開発してきたNO放出剤内包リポソームの、がんへの集積過程について詳細な解析を行った。その結果、本リポソームは投与1時間後から48時間まで集積の促進を続けた。いくつかのNO放出剤は、生体内が耐性を獲得してしまい機能しなくなる一方、本研究で用いた放出剤はそのような耐性を獲得させないため、集積の促進を続けたと考えられる。また、ナノメディシン同様にがん組織への集積量向上が望まれているタンパク質医薬にも注目し、NO放出剤を修飾する技術の創成も行い、細胞、動物の両方を用いた評価を行なっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
我々は、NOを放出するナノメディシンを開発し、がんや炎症部位での血流を制御しその集積性を向上させ、現状のEPR効果による集積率の限界を打破することを目的としている。今年度は、これまでのNO放出剤内包リポソームについて、そのがん組織への集積についての挙動を詳細に評価した。その結果、本リポソームが投与1時間後からエンドポイントである48時間後まで集積を促進し続けた事が明らかになった。また、がん組織を破砕し集積したリポソームを定量した所、未内包のリポソームより2.7倍も多く集積している事が明らかになった。また、タンパク質医薬にNO放出剤を修飾する技術の創成にも成功しており、細胞との相互作用により、NOが放出される事が確認されている。これらの技術の早出は、関連分野に大きなインパクトを与える成果と考えている。またその成果を2件の国際学会で発表し、高い評価を得ている。 以上のように我々は、NO放出剤内包リポソームの詳細か解析と、NO放出型タンパク質医薬の開発に成功しており、これらの成果は、本テーマの推進と関連分野に与える効果を考える時、当初の計画以上に進展していると判断しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、NO放出剤を担持したタンパク質医薬について、細胞、動物を用いた評価を行なっている。今後の研究の推進方策としては、まず放出剤の修飾率によって、その医薬が本来発揮する薬理作用について影響を与えるかどうか評価を行う。また、本NO放出剤は、主として細胞との相互作用によりNOが放出されるため、種々のがん細胞に添加する事で、その放出挙動を評価する。併せて、その細胞毒性についても評価を行う。次に、動物実験として担がんマウスを数種用い、本材料を投与しその集積量を評価する。この際、投与量やその毒性、治療効果についても詳細に評価することで、本材料の有効性を示す。
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