2017 Fiscal Year Annual Research Report
差異の生成に関する言語人類学的研究:ボリビア東部低地の先住民言語政策とその帰結
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17J05388
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 隆基 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 言語人類学 / ラテンアメリカ / ボリビア / 南米低地先住民社会 / 先住民言語政策 / 民族誌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ボリビア・チキタニア地方において「正しい先住民言語」が生成するメカニズムを言語人類学的に明らかにし、対象を取り巻く様々な差異のあり方を明らかにすることである。そのために本年度に行った研究の内容と成果は次の通りである。 1.学会発表を通したデータの整理・検討を行った。日本文化人類学会定期大会ではチキタノ語教育政策の複数の層の相互作用によって「正しいチキタノ語」が生成していく過程について発表を行った。ラテンアメリカ学会定期大会では、チキタノ語政策と当地の政治状況について、政治的・社会的にあいまいな立ち位置にあるチキタノ語教師のあり方について発表を行った。松下幸之助国際スカラシップフォーラムでは、矛盾や不安定さを含むチキタノ語政策の現状について発表を行った。これらの発表から、チキタノ語政策の対象社会全体における位置づけを意識して研究を進めるべき、という示唆を得た。 2.資料収集・文献を通した理論研究を行った。特に書評を投稿中のボリビア低地のグアラニ語政策に関する民族誌は、国のグアラニ語政策をローカル、ナショナル、トランスナショナルなレベルの相互作用の過程として論じるものであり、現地調査で得たデータをいかに論じるか、という点に関して参考となっただけでなく、言語人類学という枠を超えて政治人類学などより様々な人類学の分野に本研究を位置付ける可能性を見出せた。 3.チキタニア地方に滞在し、地元のカトリック教会、先住民典礼組織カビルド、行政、住民等の参加で行われる聖週間の様子や、当地の「チキタノ文化」再興を目指す協働の動きに関する民族誌的調査を行った。これにより、宗教的領域におけるチキタノ語のあり方を理解するには複数のアクターの協働を注視することが重要であることが分かった。このことは、地域的文脈を重視する国のチキタノ語政策を理解するうえでも重要な視角となるだろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の進捗状況に関しては「おおむね順調に進展している」と言える。理由としては次の3点が挙げられる。 1.当初予定していた一連の口頭発表を遂行しただけでなく、そのフィードバックを通じて「先住民言語政策の対象社会全体における位置づけを明らかにする」という取り組むべき課題がより明確となった。 2.当初予定していた言語人類学を中心とする文献・資料を通した理論研究を行った結果、政治人類学などより様々な人類学の分野に本研究を理論的に位置付ける可能性を見出せた。 3.当初予定していたボリビアでの資料収集とチキタノ語話者・チキタノ語政策関係者への聞き取りに加え、当地の聖週間や「チキタノ文化」再興の動きに関する民族誌的調査を行うことができた。チキタノ語政策は地域の社会的・文化的文脈の重視を要請する国の制度との関連から実践されるものであるため、調査地の様々なアクターが集合的に参与するキリスト教儀礼や、「チキタノ文化」再興を目指す当地の諸アクターの協働の動きの調査を行えたことは意義があった。これにより、1.で述べた「先住民言語政策の対象社会全体における位置づけを明らかにする」という新たに発展した課題に取り組むための足掛かりを得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度は、本年度までの成果をもとに学会等で発表を行い、論文を執筆・投稿しながら、言語人類学関連分野だけでなく政治人類学や教育人類学など他の人類学分野にも注意を払いつつ、博士論文の執筆に取り掛かる。加えて、ボリビアでチキタノ語教育の現状や家庭・共同体における言語使用状況について参与観察やインタビューを実施しつつ、引き続き資料の収集に取り組む。現地調査の際には、本年度得た「先住民言語政策の対象社会全体における位置づけを明らかにする」という新たな課題に取り組むため、特にキリスト教という宗教的な領域と学校教育の領域の布置関係のあり方に注意を払いつつ、調査を行うこととする。
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Research Products
(3 results)