2017 Fiscal Year Annual Research Report
近代中国領出身ムスリムの知的交流と歴史・地理認識の変容
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17J05409
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
海野 典子 中央大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2017-04-26 – 2020-03-31
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Keywords | 中国 / イスラーム / 知識人 / 東トルキスタン / 歴史認識 / 地理認識 / ウイグル / ドゥンガン |
Outline of Annual Research Achievements |
採用1年目の本年度は、文献資料の調査・収集の準備として、日本国内外の図書館や文書館の所蔵状況を把握することから始めた。同時に、手元にある漢語・テュルク語・ロシア語で書かれた一次資料の精読を進め、中国領出身のムスリム知識人の思想的営為や越境に関する先行研究を整理した。具体的には、ボストン(5月)、中国(7-8月)の公文書館・図書館などで文献調査を実施した、現地の研究者との情報交換を行うこともでき、充実した出張となった。また、9月のベルギー出張では、中国領からロシア帝国・ソ連領中央アジアに移住した漢語を話すムスリム(ドゥンガン)の歴史や文化に関する貴重なコレクションを閲覧・撮影することができた。コレクションの概要・利用方法・史料的価値をまとめた調査報告は、『日本中央アジア学会報』に投稿した。 上記の資料を分析した結果、20世紀初頭の中国領出身諸ムスリム集団(テュルク系ムスリム、漢語を話すムスリム)が、中国領においても、ロシア帝国・ソ連領移住後も、日常的に交流を持っていたことがわかった。たとえば、清代後期のムスリム反乱において両者が協力することもあったこと、漢語を話すムスリムの一部がテュルク系ムスリムを雇用していたこと、両知識人たちが中央アジア移住後に同一の「ウイグル」民族としての権利を主張していたこと、彼らが「中国」によるムスリム支配に対して複雑な感情を抱いていたことなどが明らかになった。なお、漢語を話すムスリムのなかには、「ウイグル」との共通点を主張する者もいれば、「ウイグル」との民族的差異を強調し、「ドゥンガン」という単一の民族としての地位を要求する者もいた。 本年度は、研究成果を国内外の学会・研究会などで報告することにも努めた。また、2016年度提出の博士論文の一部を英語論文として発表し、複数の書評を執筆するなど、精力的に研究活動を行うことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、資料の収集・精読、及び研究成果の発表に努めるなど、おおむね順調に研究を進展させることができた。しかし、ライフイベントによる研究中断のために、一部の資料は十分に読み込むことができていない状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降は、「ドゥンガン」と自称する漢語を話すムスリムの知識人が、1910年代にチャガタイ語で「ドゥンガン」民族の歴史や文化について書いた書籍などを分析し、先行研究で論じられているテュルク系ムスリム知識人の民族観や国家観と比較検証する。このことによって、漢語を話すムスリムとテュルク系ムスリムの相互認識や歴史認識、「中国」「東トルキスタン」「イスラーム世界」に対する地理認識などをよりくわしく調べる予定である。 しかし、当初新疆で予定していた在外研究の計画は、海外情勢の変化により大幅に見直す必要がある。滞在先を別の国・地域(カザフスタン、または台湾)に変更することを考えている。
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Research Products
(8 results)